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ってなに?

仮想オフィスに会社訪問して考えた 未来のオフィスコミュニケーション

プロジェクト② ”ちょうどいい”働き方・働く場

2021.03.15
仮想オフィスに会社訪問して考えた
未来のオフィスコミュニケーション

"ちょうどいい"働き方・働く場」をテーマに探求を続けている「CO-UPDATE KANSAI」。コロナ禍により導入が加速され、リモートワークはひとつの手段として定着しています。一方でビデオ会議ツールは以前からもあり、ただ使われていなかったものを使いだしただけではという声も。たしかに働き方・働く場の変化を考えるうえで、デジタルの活用にはまだまだ可能性がある気がします。

そこで今回は、仮想オフィスツール「Remotty」を開発・運用する株式会社ソニックガーデンの八角嘉紘さんにインタビュー。以前の記事では、代表の倉貫義人さんにご登場いただき、対談のなかで同社のユニークな働き方・働く場についてお聞きしています。今回はソニックガーデンの仮想オフィスに"会社訪問"し、取材チーム全員で「Remotty」体験をしたのち、未来の働き方・働く場のあり方について議論をしました。

オンラインで実施した取材には、オプテージのほかにも、南海電気鉄道、ウエダ本社のみなさんが参加。リアルのオフィスで行われていたコミュニケーションを、仮想空間にどう置き換えられているのか、またそこからみられる未来のオフィスのあり方とは? さまざまな角度から考えてみました。

仮想オフィスが実現する「リアルタイムでオープン」なコミュニケーション

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ソニックガーデンの八角嘉紘さん。同社のメンバーを中心に構成されたリモートワーク研究所の所長としてリモートワークに関するコンサルティングも行う。

ーーソニックガーデンは、2016年にオフィスを撤廃して仮想オフィス「Remotty」に移行されました。まずは、その経緯から伺いたいと思います。

八角:今でこそ、ソニックガーデンは「変わった働き方をする会社」というイメージがありますが、少しずつ変わって今に至っています。

2011年の創業当時は、東京のオフィスに基本的に出社していましたが、関西在住の社員が1名いたので、余っていたパソコンでSkypeをつなぎっぱなしにしていました。ずっと勤務地不問で人材を募集していたところ、2014年頃には社員の半分くらいが地方在住でリモートワークする人になりました。そうなると、Skypeでつないでいてもちょっとした声かけがしづらくなってしまったんです。

次に考えたのがSlackChatworkなどの導入です。ところが、プロジェクト進行上のコミュニケーションはできても、「一緒にいる感覚」は生まれなくて。オフィス代わりのツールにはなりませんでした。じゃあ、自分たちでほしいツールを開発してしまおうとつくったのがRemottyです

オフィスとRemottyのどちらに出社するかを選べるようにしたところ、オフィスに来る人がだんだん少なくなりました。「23人しか出社していないのに、都心に広いオフィスを借りているのはもったいないね」と誰もが思ったので、東京のオフィスを撤廃しました。ただ、自宅で仕事しづらい人もいますので、東京・自由が丘、神奈川・相模原、岡山、富山に社員ならいつでも行ける小さなワークプレイスをつくっています。

ーーRemottyを開発するうえでは、「オフィスで一緒にいる感覚」を特に大事に考えられたのでしょうか。

八角:職場のコミュニケーションを、同期性とオープンさを軸にして客観的に整理すると、打ち合わせは「リアルタイムでクローズド」、報告や連絡は「非リアルタイムでクローズド」、掲示や募集は「非リアルタイムでオープン」です。

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職場のコミュニケーションを4つに分類すると、リモートワークで失われがちなのは右上のコミュニケーションだという。

よく言われることですが、リモートワークで失われるのは、雑談のように「リアルタイムでオープン」なコミュニケーション。「一緒にいる」感覚があると、「ちょっといいですか」と声をかけやすくなるんです。

ーーリモートワークは「働く場」を「会社から自宅などに変える」というイメージがありますが、リアルからオンラインに置き換えるという感覚でも捉えられるのですね。

八角:リモートワークをはじめるにあたって、「全部を変えないといけない」と大げさに考える企業が多いのを感じています。リモートワークで解消しなければいけない問題は、人事・労務、セキュリティ、コミュニケーションという3つです。足りなくなることを何かに置き換えるという発想に変えると、そんなに大変なステップではないと思います。

オフィスそのものではなくオフィスの雰囲気を再現する

ソニックガーデンの"仮想オフィス"会社訪問

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ソニックガーデンの"オフィス"。中央に並ぶ顔写真が「席」にあたる

ーーそれでは、現在のソニックガーデンのオフィスになっているRemottyに「会社訪問」させていただいてもよいでしょうか。

八角:はい、実際に稼働しているソニックガーデンのオフィスを画面共有でお見せしますね。中央の列に並んでいる顔写真が「席」です。顔写真は、2分ごとに自動的に撮影してアップデートされます。同じプロジェクトのメンバーや、よく話しかける人を自分の席の近くに置いて大きく表示。ふだんコンタクトしない人は小さく表示しています。白黒になっているのがオフィスにいない人たちですね。

ーー席替えは、各自の環境で自由に行うのでしょうか。

八角:そうです。仮想オフィス事業をしていると「実際のオフィスをどこまで目指すのか?」という問題に直面するのですが、不便なところまで再現する必要はあるのかな?と思っていて。管理者が一括で席を決めて、離れた席にいるよく話す人を探すという行為を、デジタルのなかでもわざわざやらなくていいかなと思っています。

誰かに相談したいときは、その人の顔写真をクリックするとその人の席に行けます。すると、下に小さい私のアイコンがちょこちょこ動いて私の居場所を知らせています。

実際のオフィスでは「誰が誰に話しかけているか」が周りの人にもわかりますよね。それに気づくために、右側のタイムラインはすべての会話を表示して、オフィスのざわざわ感がわかるようになっています。

では、自分の席にみんなを呼ぶデモをやってみましょう。「@here 集まれる人来てください。今どこにいますか?」。「@here(注:製品版では「@all)」すると全員に通知が届きます。

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それぞれの""でのチャットのようす。オープンなタイムラインにも表示される。

ーー「こんにちは@愛知県」「こんにちは@自由が丘」と続々と集まってきますね! まさに、会社訪問をしている臨場感があります。

八角:今は全員に呼びかけましたが、特定の人を呼ぶこともできます。テレビ会議をしているときも、誰と誰が会議しているのかわかるかたちになっています。オープンなタイムラインに出したくない、ナイーブなコミュニケーションをしたいときは一対一のプライベートなチャットもできます。でも、あまり推奨はしていないので、ボタンは奥まったところにつけています。

オプテージ:リアルのオフィスではできなかったけど、Remottyだからこそ生まれるコミュニケーションはありますか?

八角:たとえば、リアルのオフィスで「集まってください」と呼びかけたら、510分はかかると思います。デジタルでは距離やスペースの問題がまったくないので、「@here」でみんなが一斉に集まって1分ですべて回答してくれます。また、オフィス出社したことがない新卒入社の社員は「ちょっとした声かけがしやすい」と言っていました。リアルのオフィスにいると、プログラミングに集中している先輩たちは近寄りがたい雰囲気があるだろうけど、Remottyのように「いるかどうか」と「顔が見える」環境だと気軽に声をかけられるようです。

オプテージ:リモートワークでは「ちょっとした声かけがしづらい」という意見が多く聞かれるところ、逆にリアルより声をかけやすくなっているのは面白いですね。カメラがオンになっている人と、プロフィール画像が出ている人がいましたが、カメラオン・オフのルールはあるのでしょうか。

八角:「オフにしてはダメ」というルールはないのですが、働くときはオンにするのが暗黙のルールになっています。というのも、リモートワークの場合は自分の今の状況をみんなに知ってもらうことがとても大切です。顔が見えていないと他の人が自分に声をかけづらくなってしまいます。カメラの利用についてはセンシティブな問題で賛否分かれますが、「オフィスで一緒にいる感覚」を得るためには重要な要素だと考えています。

仮想オフィスで組織に求められるのは企業文化>ITリテラシー

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合宿は入社時と入社6ヶ月後に、同期社員と経営陣で23日で行われる。

南海電気鉄道:ソニックガーデンのみなさんは、まったく苦労せずに使いこなされているようですが、社内カルチャーの共有はどのようにされているのでしょうか。

八角:ソニックガーデンでは、応募して1年から1年半はようすを見てから、本当にカルチャーが合う人だけを採用してます。先ほどの「カメラオン・オフ」についても入社前に理解が進んでいる状態です。

社員数の増え方もお互いを知り合えるくらいのスピード感で人が増えていくので、全然話せない人はあまりいないのかなと思います。また、毎週金曜日には社内向けのYouTube番組を配信していて、新しいメンバーの人となりを知ってもらうようにしています。昨年はコロナ渦でできなかったのですが、通常は入社時や入社6ヶ月後には、同期入社の社員と経営陣で23日の合宿を開催。ソニックガーデンのカルチャーや仕事の進め方のレクチャーや何かしらのアクティビティを体験してもらっていました。

リアルのオフィスも同じだと思いますが、自分のことを知っていて認めてくれる人が同じ場にいると居心地がよくなります。そういう意味もあって、合宿はすごく重要視していますね。

ーー仮想オフィスで仕事をしていると聞くと先端的なイメージですが、会社というコミュニティは極めてオーガニックに育まれているんですね。

八角:代表の倉貫は「ソニックガーデンは昭和な会社だ」と言っていましたね。

「バーチャル取材室」を体験しながら語る

仮想オフィスの役割と未来

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バーチャル取材室のようす。八角さんの""が表示されている。

ーーそれでは、私たちもRemottyを体験させていただきたいと思います。

八角:みなさんにご覧いただいた我々が使っているRemottyは製品版とはちょっと違っていて、ソニックガーデンしか使わない機能も搭載しています。自分たちで使うなかで「これはいいね」という機能を製品版に落とし込んでいるんです。たとえば、カメラ機能はカメラオンの「写真共有」と、カメラオフだけでプロフィール画像を表示する「プロフィール画像表示」、もうひとつ「在席共有」の3つのモードを用意。「プロフィール画像表示」と「在席共有」はカメラが苦手な人のためのモードです。撮影した写真を共有せずに「席にいるかどうか」を判断して、いないときは「離席中」と自動的に表示します。

デフォルトで考えていたカメラで顔写真を撮る機能は、「ちょっといい?」と声をかけづらい感覚を解決するために開発しました。でも、世の中の企業では「カメラ=監視」というイメージがすごく強いので、製品版ではこうしたオプションをつくりました。

ーーRemottyの左上に「取材室」とありますね。これが部署名やオフィスのフロアのようなイメージでしょうか。

八角:はい、ここがひとつの「ルーム」ですね。企業さんごとに「営業部」「開発部」など、ルームを分けて使っていただいています。ルーム内では自由な会話ができるように、ルーム間の移動ができる人も制限できます。企業ごとに、心理的安全性を保てる範囲でルームの設計をしていただいています。

ーー左側にあるのは、グループチャットの機能ですか。

八角:そうです。リアルのオフィスで他部署の人の動きをなんとなく知るようなイメージで、公開のグループチャットの議論は右側のタイムラインに流れるようにしています。

ーーたしかに。従来のグループチャットの公開チャネルは、「わざわざ見に行く」感じがありますが、これだとなんとなく目に入ってくる感覚で情報に触れられますね。

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これからの仮想オフィスのあり方について八角さんと議論する、オプテージと南海電気鉄道。

ーーそれでは、ここからはRemotty体験を振り返りながら、仮想オフィスについて議論を深めていきたいと思います。コロナ渦以降、ゲーム関連のスタートアップ企業が仮想オフィス事業に参入してきて、「一歩外れるとビーチに出る」というような非現実性のあるツールもあります。今後、どういうツールが求められていくと思われますか?

八角:いわゆる遊びの要素がどれだけ求められているのかは、気になるところではあります。ただ、Remottyでもたまにあるのですが、仮想オフィスは仕事にきちんと結びついていないと、ログインする必然性がなくなって「誰もいないオフィス」になってしまうんです。

ーーVR上で全員がアバターになって会議をすると、上司も部下もなく関係がフラットになって議論がしやすかったという事例もあるようです。

八角: VRやXRの仮想オフィスの可能性もきっとあると思うのですが、どういう形かはまだ明確に見えていなくて。「アバターを設定してコミュニケーションをするというゲーム的なことを、日常の業務のなかでやるのかな?」と疑問に思っているんですね。

それよりは、リアルのオフィスにあって今の仮想オフィスにないコミュニケーションは、身体的な動きや表情の細かい動きなど、非言語なコミュニケーションじゃないかと考えています。zoomで会議をしていても、その人がもっている全体的な雰囲気を感じられないですよね。今のRemottyでは、このあたりは完全に欠落していると認識しています。

Remottyが目指す方向性としてはアバターではなく、VR空間で本人に限りなく近いものとして、よりリアルに近づけることができるならありだと思います。

南海電気鉄道:今の仮想オフィスには、リアルのオフィス空間を再現しようという方向性と、仮想空間に置き換えたオフィスを突き詰めようという方向性があって、試行錯誤の過程にあるのだなと思いました。近い将来に誰かが正解を見つけそうな気がしますね。

仮想オフィスが再現するのは「空間」か「機能」か?

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それぞれの視点から仮想オフィスの可能性を検討した取材メンバー。

ーー現時点で八角さんがRemottyに感じておられる課題や、この先の展望として予定していることを伺いたいです。

八角:コロナ渦以降、いろんなツールが一気に増えて、仮想オフィスがひとつのサービスカテゴリとして認識されるようになりました。それはとてもいいことなのですが、一般的には仮想オフィスというと上からオフィスレイアウトを俯瞰で眺めて「今日はここで仕事しよう」と、自分のアイコンを移動する......というものを想像していたというケースが出てきました。

他のツールの多くはリアルのオフィスに模したレイアウト画面がメインで、ユーザーが「どこの席で働くのか」合わせて動くようなUIになっているのですが、Remottyではそれはサブにしていて、それぞれの関係性でカスタマイズした席を設けているのが特徴です。効率を求めすぎた結果としてできてしまったズレを、世の中が想像する仮想オフィスに寄せる方向で解消するために、上からオフィスを眺める画面にすることも検討しています。

ーー「オフィスで働くとは、誰かとともに場所を共有することだ」という本質にシンプルに特化したツールとして生まれたRemottyが、仮想オフィスの概念が広がるなかで、少し立ち戻って開発しなければならなくなったんですね。

八角:そうですね。ただ、わかりやすさも必要ですので、そこに意味を見出して開発しようと思っています。階段にたとえると、Remottyは背の高い人しか登れない階段で、背が低い人のためには一段を二段に分けることが必要だろうと思うので、これからその作業をしようとしています。

ーーインタビュー全体を通して、ソニックガーデンのカルチャーに一貫するものを感じました。オプテージのようなITベンダーとの連携する可能性もあるでしょうか。

八角:最近、Remottyは引き合いが多くなっています。ソニックガーデンの強みは、Remottyの根幹にあるカルチャーをベースとしたツール開発です。つくったものを広めるうえでは、販売・導入の部分を一緒にやっていけるパートナーを募集する予定です。

ーー最後に、これから仮想オフィス導入を検討している企業さんにアドバイスをお願いします。

八角:今は、コロナの影響があるので、「仮想オフィスを試してみようか」と検討されている企業が増えています。各社が、自分たちに一番合うツールを見つけられるといいなと思っていて。そのなかでRemottyがフィットする会社さんに使ってもらえたらと思っています。

(文/杉本恭子)

編集後記

はじめて体験する仮想オフィスに、取材チームは興味津々。Remottyを使ってみて感想から、さまざまな質問が出て取材は大いに盛り上がりました。

これまで取材を重ねるなかで、リモートワークの課題のひとつにあがっていた「雑談」も「Remottyなら声をかけやすい」とCO-UPDATE KANSAIのメンバーは納得したようす。「カメラのオン・オフの考え方を含めて、企業の文化的背景とツールの相性は重要だと思った」とオプテージ。南海電気鉄道は「各社の勤務形態や需要に合えばハマるけれど、そうでない企業もまだ多い。雑談も、テキストと声では情報量が違うんじゃないか」とコメント。ウエダ本社はリモートワーク勤務体験を踏まえて「在宅とオフィス勤務の人の間に生まれるギャップを埋めるうえでも、仮想オフィスには可能性があるのかもしれない」と話し、いろんな視点から仮想オフィスを捉える議論が深まりました。

  • 八角嘉紘株式会社ソニックガーデン 仮想オフィスRemotty 事業責任者
    新卒で経営コンサルティング会社に入社。IT企業の業績アップをミッションとしたコンサルティング部隊の責任者を経験。現在はリモートワーク研究所所長、仮想オフィスRemottyのプロダクトオーナーを務めている。また、ソニックガーデンが経験してきたノウハウを広く世の中に提供するべく、働き方に関するコンサルティングも行っている。

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