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ってなに?

住民の「やりたい」を軸につくる 地域の働く場とコミュニティ

プロジェクト② 「ちょうどいい」働く場

2020.09.28
住民の「やりたい」を軸につくる
地域の働く場とコミュニティ

CO-UPDATE KANSAI2つ目のプロジェクトテーマは「"ちょうどいい"働く場」。中原淳さんへのインタビューで「働き方」、ワークプレイスデザインの専門家である仲隆介さんと山田雄介さんによる対談で「働く場」の未来について学びを深めてきました。

今回は、東京のベッドタウン・多摩地域で創業支援とシェアオフィスやシェアキッチンの運営などを手がける、株式会社タウンキッチンの代表・北池智一郎さんにインタビュー。都心で働く人たちが多く暮らすまちに、新しい仕事と働く場をつくる可能性を伺いました。

今回も取材はオンラインで実施。オプテージのほかにも、南海電気鉄道、ウエダ本社のみなさんが活発に質問するインタビューとなりました。

地域の人の「やりたい」をソフトとハードの両面で支える

――タウンキッチンは今年で創業10年。シェアキッチン「学園坂タウンキッチン」、高架下にある東小金井の公共シェアオフィス「KO-TO(コート)」、立川のシェアオフィス「TXT(テクスト)」、キッチンとショップ、ワークスペースをシェアする「HIBARIDO」など、多摩地域を中心に運営する施設は10を数えるようになりましたね。

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東小金井駅の高架下には、シェアオフィス「KO-TO」、店舗などとして使える「PO-TO(ポート)」、シェアキッチンやシェア工房のある「MA-TO(マート)」など創業支援施設が広がり、「コウカシタ・ヒガコインキュベーション」と名付けられたエリア一帯に100以上の起業家が集まる

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高架下では起業家たちの手によってイベントも開催され、「住むまち」だった東小金井に新たなにぎやかさが生まれた

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西東京市のひばりが丘団地につくられた「HIBARIDO」は、団地の中で暮らし働くことを提案するシェア施設。グッドデザイン賞も受賞した(撮影:Ryoukan Abe)

北池:われわれの主な事業領域は、地域における創業支援とシェア施設運営。ソフト面とハード面の両方をサポートしています。

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自身が暮らす東小金井を拠点に創業支援と働く場を提供している北池さん

地域には、アイデアをかたちにする手段が分からなくて立ち止まっている人がたくさんいます。私たちはソフト面として、地域の人たちへスクールを開催して市民起業家の卵を掘り起こしたり、テストマーケティングができるプログラムなどを提供する事業創出プラットフォームとして、「ちょうどいい郊外」を合言葉にした「HERE」を展開したりしています。

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地域の人の「やりたい」気持ちをかたちにしていくために、実践を伴うプログラムを提供。そこが仲間づくりの機会にも

ハード面では、「KO-TO」「TXT」などのシェアオフィス、高架下のスペースを細かく区切って店舗や工房などとして使える「PO-TO」、「MA-TO」などを、事業化へ一歩踏み出した人たちに貸し出しています。

日本では、創業支援に相談料を支払うという感覚はあまり浸透していません。一方で、場所を借りることに対して賃料を支払うという価値観は共通認識としてあります。相談と場所の提供をセットにすることで、結果的に相談に乗りやすくなりますし、事業としても成立するんですね。

南海電気鉄道:KO-TO」や「PO-TO」などはJR中央ラインモールさん、川崎のシェアオフィス「NESTING PARK KUROKAWA」は小田急電鉄さんとパートナーを組んでいますね。

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鉄道会社として、沿線のまちづくりに興味を持っている南海電気鉄道

北池:郊外に住んで都心に働きに行くという構図には、30年、50年先の未来が見えづらくなっています。鉄道会社さんは、「沿線人口を減らさない」という大きな目的を考えるなかで、遊休資産から地域の仕事をつくるという発想に共感し、私たちとご一緒してくれているのだと思います。

また、「KO-TO」は小金井市の公共施設であることをはじめ、タウンキッチンが運営する施設は西東京市や武蔵野市など、東京都の事業と連携して設置されています。自治体、鉄道会社、信用金庫などは地域に根ざしているので、長期的に地域のことに取り組みたいと考えているのです。

ベッドタウンには小さな創業の種がたくさん眠っている

――タウンキッチンの施設はいずれも都心ではなく郊外のベッドタウンです。なぜ、郊外をフィールドに選ばれているのでしょう?

北池:私は以前、都心の大きなコンサルティングファームで、省庁や大企業と仕事をしていました。そのとき、「誰のために何をしているのか」を見失いそうになることがあったのです。だから、独立してからは「ローカルで近くにいる人たちのために自分の時間を捧げよう」と思いました。当時多摩地域に住んでいたため、そこから事業を始め、周辺のエリアに展開したということです。

――創業支援の対象もいわゆるベンチャーというよりは、地域住民の方によるスモールビジネスの起業が多いようですね。郊外のまちで、そこに暮らす人たちの創業を支援することにどんな可能性を感じていますか。

北池:例えば、シェアキッチンを利用する方のなかには、自分のお子さんのためにアレルギーに対応したパンやケーキを焼いていたら、うわさを聞いたクラスメートのお母さんに「バースデーケーキを焼いてほしい」とお願いされたことをきっかけに、小さな事業を起こした人もいます。

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自分のオリジナル商品をつくって販売できるシェア施設「MA-TO」。オフィス以外の設備を必要とする小商いや店舗経営のニーズに応えている


IPO(株式の上場)を目指して起業するなら渋谷や六本木でやる方がよいと思います。そうではなくて、副業として、あるいは子育てをしているママさんが、暮らしの中で3番目くらいの優先順位で起業するのも面白いんじゃないかと思います。

こうした人たちの背中を押すことを通じて、地域に住む人たちが自分の暮らしの不満や要望について、行政や企業に「なんとかしてくれ」と要求する"お客さん"ではなく、それぞれが主体性を持ちながら「自分たちの暮らしを充実していくにはどうしたらいいか?」を一人称で考える状況をつくりたいんです。

私は、全国チェーンのお店が並んでいる便利な駅前より、個性的なお店がいっぱいあるまちの方が楽しい。私たちのシェアキッチンでは、毎週看板が変わりますし、新しいお店との出会いもあります。どのお店も非常にクオリティーの高いお菓子やパンをつくっていて、中には2週間に1回だけの開店に30人ぐらいが並ぶお店もあるんです。

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MA-TO」で開かれるお店には行列ができることもあり、地域の人が買い物をする新たな場所としても、まちににぎわいをつくり出している

オプテージ:タウンキッチンの施設利用者はどんな方が多いのですか。

北池:私たちが拠点とするJR中央線の吉祥寺以西の沿線は、都心よりも家賃相場が低いので3040代のファミリー層が多く、ボリュームゾーンは40歳前後になります。

男性は、大手企業を退職して家族を養うだけの収入を得ようと起業する人、建築家やデザイナーなどのクリエイターも一定数います。シェアオフィスにはこうした男性が比較的多いですね。女性は、子育てが一段落してからシェアキッチンを利用して小商いを始められたりしています。

「仕事」と「暮らし」の関係性の見直しが始まっている

――新型コロナウイルスの感染拡大によってリモートワークが一気に普及し、「暮らしは郊外、仕事は都心」というこれまでの常識が変わりつつあります。北池さんは今の状況をどう受け止めていますか。

北池:早朝からスーツ姿の人たちが疲れた顔で満員電車に揺られている状況をよしとしていた人はいなかったはず。ただ、コロナ以前は、その違和感にふたをする以外の選択肢がなかっただけではないでしょうか。

ところが、コロナ以降は「会社に行かなくてもなんとかなる」と分かってしまったので、その違和感のふたが開いたというか。遅かれ早かれ変化するはずだったことが、10年分くらい一気に進んだと捉えています。

――コロナ以降、タウンキッチンへの問い合わせは増えていますか。

北池:事業が難しくなって「固定費削減のためにいったんオフィスを解約したい」というケースもありますが、それを上回るペースで新規の問い合わせは増えています。会社員だった方が、念願だった飲食店の経営を、今だからこそ戦略的にデリバリー専門にして開業したというケースも。現状を守ろうとする方がいる一方で、このタイミングでチャレンジする方もいらっしゃいます。

「暮らす」と「働く」が近いとまちは豊かになれる

オプテージ:私たちは取材を重ねながら、この変化の先にある「オフィス」「自宅」「サードプレイス」の新しいかたちを考えてきました。オフィスで働いていたビジネスパーソンは、自宅やその周辺のサードプレイスでリモートワークをすると、通勤時間がなくなって夜に空き時間ができるかもしれない。そこで「空いた時間で地域のために何かしようかな?」という人が出てくると考えています。

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先日、パパたちの座談会を開催し「地域の父親同士が集まる場が新鮮で面白い」という声を聞いたというオプテージ

北池:私もそうあってほしいなと思っています。まさにそう考えて事業を展開していますから。私たちは、「HERE」などで食や空き家、介護など地域の課題をテーマとしたスクールを定期的に開催していますが、地域で活動することに興味を持っている会社員の方は意外と多いという実感があります。「HERE」では、持ち寄った事業アイデアごとにチームをつくり、空き家などを使ってトライアルを行います。こうした場を用意することで、継続的に地域に関わり続ける人が増えてほしいと思います。

オプテージ:自宅周辺でリモートワークをする人が増えると、都心での仕事で培った知識やスキルが、暮らしている地域に還元されていく可能性がありますね

北池:おっしゃるとおりです。それから地元に知り合いや友だちができることは、郊外で働く場を持つ価値の一つだと思います。

都心で働く会社員は地元に友だちがいない人が多いんです。もし、地域のなかで働く場所を共有するようになれば、交流が始まりますよね。「今晩いきますか?」と誘いやすくなるし、そこでビジネスの話が始まったりもする。私たちも意識的に施設単位の交流会や飲み会を開くようにしています。

東小金井は住宅街ですから、シェアオフィスの利用者は徒歩か自転車で来る人ばかりです。生活圏を共有しているので、仕事上でもむやみに敵対せず助け合おうという意識が働きやすくなります。暮らしと仕事が近いことは、利害関係を超えた関係づくりにもつながると思います。

一方で、ターミナルシティである立川の「TXT」などは、「立川 レンタルオフィス」などで検索して申し込みをする方がほとんど。交通アクセスや利便性を目的にして選んでいるので、東小金井などに比べると快適な仕事場が得られればまずは満足と考えている方も多いようです。

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TXT」では、自宅近くでのリモートワークや企業のサテライトオフィスとしてのニーズに応えながら、地域とのコラボレーションも後押ししている(撮影:Ryoukan Abe)

楽しんでいる人の周りには自然と人が集まってくる

ウエダ本社:今日のお話にも出た、郊外から都心への満員電車に揺られている人たちに、地域の担い手とまではいかなくても、ゆるやかな関わりを持ってもらうにはどうしたらよいと思いますか。

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「働く」に寄り沿うことを考え続けてきたウエダ本社。働く人のあり方に踏み込んだ質問も

北池:基本的に「みなさんやりませんか?」とこちらから誘ったことはないんです。地域を担う上では、本人が「面白い」と思っていることが唯一の武器であり原動力だと思います。ただ、やりたいことがあっても自分一人では前に進まないので、何かやりたい人が隣り合うような関係づくりの場を提供することが、一番うまくいく方法じゃないかという仮説を持っています。

私たちが提供している関係づくりの場は、「お見合い」ではなくて「合コン」をイメージしています。こちらから「この人とこの人をつなげよう」と考えるのではなく、場だけを用意して好きなもの同士がくっつけるようにしておくとうまくいきやすい。

自分たちが本当に「やりたい」「楽しい」と思っていたら、自然と人は増えていきます。「地域のために」となると「してあげている」といういびつさが出てくる気がしますしね。

ウエダ本社:私は東京で満員電車に揺られて通勤していたとき「やりたい」という気持ちが自分にあるとは思えませんでした。「やりたいと思ってもいいんだ」と気付く人が増えるように、働きかける方法はあるでしょうか。

北池:私たちは「リンジン」というウェブメディアで、創業した人たちのストーリーを紹介しているのですが、まさに「やりたいと思ってもいいんだ」と気付いてもらえたらという思いでつくっています。

さらに言うと、地域のリアルな場の情報発信力は非常に高いんです。実際に東小金井の「KO-TO」などを「どこで知りましたか」とアンケートで質問すると、「どこだったか忘れた」という回答が一番多い。「場所ができたことも知っていたし、人づてにも聞いたし、市報でも見たけれど、最初に何で知ったかは分からない」と言うんですね。こういう情報の伝わり方がマーケティング上一番よいだろうなと思っています。

――最後に、これからの地域と働く場づくりについてどんな未来をつくっていきたいですか。

北池:地域で暮らす一人ひとりの人が、「自分でやるしかないんだ」と行動するようになれば、もっともっと自分の暮らしが楽しくなると思います。その手段として、創業があったり、空き家の利活用があったり。一人ひとりの「やりたい」を育てていく地域のプラットフォームであり続けたいと思います。

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自分ごととして東小金井のまちに関わる北池さんの話に、CO-UPDATE KANSAIのメンバーも自分が暮らす地域の「働く場」を思い描いた

聞き手/オプテージ 霜野佑介、辻善太郎、南海電気鉄道 粉川純一、ウエダ本社 浅井葉月

(文/杉本恭子)

編集後記

大阪出身の北池さんへのインタビューは、CO-UPDATE KANSAIのメンバーにとっても親しみのある関西弁が飛び交う取材となりました!

リモートワークの時間が増えて自宅と職場の関係性を考えていたCO-UPDATE KANSAIのメンバーは、地域住民に働く場と仕事づくりを提供するタウンキッチンの取り組みに刺激を受けたよう。ウエダ本社は「企業での肩書きを外して、個人としての働き方を見つける機会提供をする場や仕掛けを実験的につくれたら面白そう」とコメント。オプテージは「人と人との関係性をつなぐ場づくり、自分のやりたいことに気付く機会を提供するには地域という単位が適しているのかもしれない」という新たな視点を得たようです。また、沿線のまちでの創業支援に関心を持っていた南海電気鉄道は「地域の活性化につながるかどうかという視点をあらためて実感した」とコメントしました。

CO-UPDATE KANSAIでは、これまでの取材を踏まえつつ、さらに「“ちょうどいい”働く場」の具体的なイメージを膨らませていきます。

  • 北池智一郎さん株式会社タウンキッチン 代表
    1976年大阪府生まれ。大阪大学工学部卒業。外資系コンサルティングファーム、人材系ベンチャーを経て2008年に独立。2010年に株式会社タウンキッチンを立ち上げ、東京・多摩エリアを拠点に、地域づくり・仕事づくりのコーディネートに取り組んでいる。
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