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大企業と地方企業をまたぐ「ふるさと兼業」的な働き方

プロジェクト② ”ちょうどいい”働き方・働く場

2020.10.16
大企業と地方企業をまたぐ
「ふるさと兼業」的な働き方

コロナ禍でリモートワークが拡大するなど、働き方やビジネスパーソンの意識が大きく変わり始めている今。今回は、リモートワークがさらに定着したら、どんな新しい働き方が生まれるのか、模索していきます。

お話を伺ったのは、地方の企業と兼業人材をつなぐプラットフォーム「ふるさと兼業」を運営するNPO法人G-net代表理事の南田修司さんと、実際にこのサービスを利用した多久田篤希さんと小林遼香さん。「ふるさと兼業」が今後の社会にもたらす価値について話していただきました。

今回も取材はオンラインで。オプテージとウエダ本社のみなさんが参加しました。

人材と地域の企業が共感と熱意でつながる

――まずは、ふるさと兼業の仕組みについて教えていただけますか。

南田:都市部や違うまちで働いているけれども、隙間時間を使って愛着ある地域や共感する事業に関わりたいという人材と、知恵や人手を必要としている地方の企業・団体を、兼業やプロボノという関わり方でつなげるマッチングプラットフォームです。

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岐阜を拠点に現在全国23地域に展開中。今後も拡大を目指す

地方創生が叫ばれて久しいですが、地方は「若者に帰ってきてほしい」と言うだけでなく、根本的解決として若者が帰りたいと思えるような仕事・暮らしをつくっていく必要があります。とはいえ、地方は人手不足が深刻でチャレンジの一つも難しい状態。一方で、都市部で働く人たちはいつか地元に帰りたいと思っているけれど、自分の地元では誰がどんな思いで働いているかという情報がまったくないと困っていました。だから、ふるさと兼業では、地方のチャレンジを後押しするために、都市部の人に隙間時間で関わってもらう仕組みをつくり、2年前から始めました。

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 「今では兼業や関係人口というキーワードがトレンドになり、兼業人材の応募が急増している」と話すG-netの南田修司さん

オプテージ:ふるさと兼業では、みなさん本業を持ちながら地方企業のプロジェクトに携わっていますよね。お手伝いする企業からお金をもらって働く「兼業」と、お金をもらわずにボランティアで関わる「プロボノ」があるようですが、どうやって決めているのでしょうか。

南田:まずは募集段階で企業と我々で設定し、最終的には企業とエントリーした方の間で調整して決めています。現状は兼業の方が多いですね。

ふるさと兼業では、「誰とどんなチャレンジができるのか?」といった、プロジェクトに関わることで得られる金銭以外の価値、つまり「意味報酬」を大事にしていています。「共感と熱意でつながる」をコンセプトにしているのもこのためです。

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ふるさと兼業は、外部人材を求める企業と多様な働き方をしたい人材をつなぐマッチングイベントを各地で開催している

とはいえ、僕としてはまず「金銭報酬」を想定するのが大切だと考えています。そこで相場や希望に合わなければ、補完するものとして、どんな意味報酬が提供できるかを考えていく流れが健全ではないでしょうか。また、意味報酬は常に変動するので、見直しできるようにプロジェクトの期間は必ず決めるようにしています。

共感できる人と共に挑戦したら、生き方・仕事が広がった

――小林さんと多久田さんは、それぞれどんなふうに「ふるさと兼業」を活用されたのでしょうか。

小林:東京の大手通信会社で営業として働いていましたが、汎用性の高いスキルをほかにも身に着けたいという思いがあり、広報・PRの経験を積みたいと考えていました。同業でなければ副業OKの会社だったので、ふるさと兼業で飛騨市ファンクラブの広報事業に応募しました。観光以上、移住者未満の関係人口を活性化させるというミッションのもと、飛騨市の職員さんと一緒にオン・オフラインイベントの企画・運営などを行いました。

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もともとライターとしても活動していて、そうした経験を認められて飛騨市とマッチングした小林遼香さん

週1でオンラインミーティングがあるのですが、毎回楽しくて仕方なくて! 当時は、会社に新卒で入って2、3年目。やりたいことがあっても自分の業務範囲を超えたことだとなかなか承認をもらうのが難しい場面もありました。それが飛騨市では、自分の意見をすぐに議論できる場があり、実現に向けて動いていく力もある。アイデアが一週間で実現したこともあります。それら一連のプロセスを若いうちに学べたのはありがたかったです。

もう一つは、さまざまな人や働き方を知って、私自身が生きやすくなりましたね。自分を承認してもらえるコミュニティが仕事と家族以外に、しかも地方にある。それまでは仕事と家族の中で生きなければいけないと自分で自分を縛っていた気がします。

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小林さんが携わった飛騨市ファンクラブでは、コロナ禍で飛騨市への帰省や旅行が難しい人向けにオンラインイベントを開催した

南田:飛騨市はもともと市長の強いリーダーシップのもと、新しいことに積極的に取り組んでいく勢いのあるまちです。何より行政の担当者の方が責任者となって積極的に受け入れられていて、ときに時間外でもミーティングしているのって稀ですよね(笑)

多久田:僕は東京のインテリア企業で3年働いた後、家業である食品の包装資材を販売する愛知の会社に戻りました。新規事業を起こさなければならないものの社内のノウハウでは難しい、というときにふるさと兼業に出会いました。

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「新しい働き方会議」への参加をきっかけにふるさと兼業に挑戦した多久田篤希さん

ぜひ当社でも受け入れたい!と思ったものの、まずは自分の理解を深めるために、僕個人が他社のプロジェクトに入ってみることに。岐阜県の陶器会社で、新規事業の一環として新商品のクラウドファンディングの企画・運営に携わりました。3カ月間、挑戦する人たちの息遣いを感じながら取り組めたのは、僕自身のモチベーションになりましたし、意味報酬的な部分はすごく受け取りました。

――多久田さんはその後、ふるさと兼業に受け入れ企業としても参画されていますよね。

多久田:新商品の開発を手伝ってくれる方2名を採用し、3カ月間でケーキにのせるケーキトッパーを開発しました。一人は大手通信会社の経営企画部を経て現在は会社を経営する女性で、もう一人はメーカー勤務の若手のトップ営業マンの男性。商品企画は女性と僕で進め、販路拡大の部分を男性と僕で進めていきました。

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多久田さんが兼業人材2名と開発したケーキトッパー。3カ月で全5種類を商品化した

当社はBtoB企業だったこともあり、そもそもBtoCの商品をつくるノウハウも発想もありませんでした。何より僕がアイデアを考えても、社内には壁打ち相手がいなかったんです。それが、彼らは僕の意見が間違っていればちゃんと指摘してくれて、具体化まですることができた。そのあたりもありがたかったですね。

人材流動性が高まる中で目指すのは常に求心力を発揮できる企業

ウエダ本社:受け入れ企業は各都道府県にありますが、企業が兼業人材を受け入れる際にどんなところが壁となっていますか。

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新しい働き方を探るウエダ本社は、ふるさと兼業の仕組みの完成度の高さに感動していた

多久田:受け入れ企業の経験から言うと、オンラインのみでのやりとりは想像以上に大変でした。僕は兼業人材側の経験があったのでクリアできたものの、初めての企業だとなかなか難易度が高いなという印象です。特にオンラインは、相手に情報を伝えることはできても、相手がどこまで理解できているか分からない。あやふやなまま自己解決してしまって結果違う、ということも起こったりして......。

南田:確かに、リモートワークに慣れていない企業が多いのは事実です。そういった日々の問題に対処できるように、ふるさと兼業では全国23地域にコーディネーターを設けています。日頃から地元に根付いている人ばかりなので、みなさん企業の懐に入り込んで、募集前から事業終了までサポートしています。

実は、2018年の事業開始直後に、マッチングした企業と人材の7割以上が途中終了してしまったことがありました。オンラインのやりとりが面倒になったなどの企業側のちょっとしたリテラシーや不慣れから、そのうち兼業人材側の熱量も下がってしまったんです。ほかには、社長のプロジェクトに巻き込まれた社員さんの理解が得られず、不満が募ってやめてしまったケースもありました。実際、プロジェクトの中心人物の理解は比較的早い一方で、組織全体への浸透は一筋縄ではいきません。そういったことをフォローする存在としてコーディネーターを設けたら、同様のトラブルはほとんどなくなりました。

だた、今でも受け入れ態勢が整っていない企業が多いのは実情としてあります。実はふるさと兼業全体で人材過多の状況で、受け入れ企業が増えにくいのは企業側の不安がまだ大きいからなんです。代表的には「外部の人と仕事するイメージがわかない」「隙間時間でできる仕事なんてない」「オンラインでやったことがない」の3つ。短期的な事業成果はおよそ3カ月で見えてきますが、受け入れの土壌が整うのには3年ほどかかるかもしれません。

オプテージ:身近な地場会社がやっているとか、想像しやすいケースがあると、受け入れへの興味がわきそうですね。

南田:そうなんです。東京のベンチャーの話をしても刺さりませんから。ただ僕は、外部人材の登用は選択肢の一つだと思っています。経営方針を貫き自社だけで進める企業があってもよい。ですが、事実、多くの企業が人材確保に苦戦しています。一時的に人材を囲い切れても、今後自社だけでまかないきれなくなることもあるでしょう。人材流動性が高まると、いかに必要な人材をひきつけられるかという企業の求心力が常に問われるようになります。その求心力をどうやって磨くかを模索している組織の方が健全だと僕は思います。

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関西の中小企業における新しい働き方も探りたいオプテージ

ふるさと兼業的な働き方が従来の生き方・働き方を溶かす

――ふるさと兼業的な働き方は、これからの会社や社会にどんな価値をもたらすと思いますか。

小林:まず、地域や社会の問題が自分ごとになるという点で、こうした働き方はよい社会づくりへの第一歩だと思います。

働く側としては、終身雇用が保証されない今、個人のスキルの重要度が増してきたので、自己成長を止めてはいけないと感じます。社会に必要なスキルを読みとり、磨き続けていく。そのプラットフォームとして、ふるさと兼業は金銭報酬だけでなくお互いにスキルや経験も含めた等価交換で取り組む持続可能な働き方。時代に合った生産性の高い働き方として、今後スタンダードになっていく気がしますね。

多久田:僕は会社のあり方が、今後数年で大幅に変わりそうな気がしています。お金だけつながる利害関係というよりも、意味報酬でつながる関係に。熱量の高い人同士が必要なときに必要なだけ集まり、終わればチームは解散。会社は、それを提供するプラットフォームになるんじゃないかと思うんです。

人材確保がますます困難になり、障壁を取り払ってオープンにしよう、という企業も増えるのではないでしょうか。僕の会社も、外部人材の受け入れを含め、時代の流れに対応できるように自社の魅力を磨いていかなければという認識です。

南田:今日お二人から改めてふるさと兼業の価値に気付かせていただきました。僕はふるさと兼業で、これまでのシステムで成り立ってきた仕事と生活を「完全に変える」のは難しいですが、「溶かしていく」ことはできると思っています。「生きる」と「働く」の線引きや会社と会社の線引きをどんどん溶かしていきたいんです。

仕事の価値の指標も変えていきたいと思っています。以前、事業再生のプロがお世話になった地域にふるさと兼業を通じて関わられたのですが、別のコンサルタントの方には「それは価格破壊だ」と言われたことがありました(笑)。でもよく考えてみれば、世の中には「定価」がありますが、人によっては無料でもやってあげたいというケースもあります。グローバル経済がある一方で、地域や限定された関係性の中で生まれるコミュニティ経済もあり、2つが混在する時代になっている。そのコミュニティ経済の潤滑油になっていくのがふるさと兼業かと思います。

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関西という地域の中で働くCO-UPDATE KANSAIのメンバーにとって、ふるさと兼業的な働き方は企業として、そして個人としても刺激になった

どこにいるか?ではなく、誰と何をするか?が重要に

――コロナ禍によってリモートワークが拡大するなか、今後どのような働き方が広まっていくと思いますか。

南田:今後はどこにいるかよりも「誰と何をするか」がよりフォーカスされる時代になると思います。社員でしかできない仕事、外の人材でもできる仕事、外の人材の方がやりやすい仕事というふうに業務を切り分けていくと、地域に人がいないことが必ずしも問題にはなりません。実は、いずれはふるさと兼業の世界版も展開したいんです。海外の方が商品の海外展開を担当してくれることなども十分あり得ます。地方がそれすら受け入れられる土壌になっていくことが、我々のやりたい勝負ですね。

あとは価値の個別化です。ふるさと兼業では報酬の低いプロジェクトもありますが、その人にとっては価値があるんです。今後は「この労働の対価は〇〇円」などという一般的な指標に縛られず、個人にとっての納得感があれば取引が成立するような状況になっていくと思います。ものごとの価値が人それぞれになっていくんですね。

多久田:同感です。こうした働き方が次世代へ浸透すれば、「大学は東京へ」「就職は大手に」といった、これまでの「正解」がなくなる気がします。

南田:都市部と地域、大手と中小は、これまでヒエラルキーのように語られることが多かった。でも、ふるさと兼業的な働き方では、どちらか一方が得するものではないんです。ふるさと兼業ではこの秋、トヨタ自動車の社員さんと地方の地場産業をつなぐプロジェクトを開始しました。全体が見渡せる規模の会社で「誰のため、何のために働いているのか」を社員さんに肌で感じさせたいというニーズに、トヨタ社員のノウハウや経験を求める地場企業が応えた形です。都市部と地域、大手と中小はお互いにないものを求め始めている。それを支えるのがふるさと兼業的な働き方だと思いますね。

聞き手/オプテージ 霜野佑介、下田平卓也、ウエダ本社 王智英、浅井葉月

(文/池尾優)

編集後記

オプテージからは「ふるさと兼業的な働き方は、CO-UPDATE KANSAIでも理想の社会像として掲げていた社会観だったので、事業にはもちろん、お二人が感じられた価値観にも、深くうなずきながら聞いていました。個人的にも兼業にエントリーしてみたいですね」と大きな共感の声が上がりました。

長年「働く環境の総合商社」として職場環境や働き方の変革に取り組んできたウエダ本社においては、「ただ単に仲介するよりも、やる気のある会社と人材が引かれ合って自ずとマッチングする方が、結果的によりよい成果を生むのは明らか」とふるさと兼業の仕組みを絶賛。自社の取り組みとも比べて「一社単体よりも、同じ思想の人と一緒に取り組むことでより広がりをもたらすことができるのかも」といった気付きも得たと言います。

一方で、ふるさと兼業的な働き方の理解は、個人としては広がっているものの、実際の副業制度や外部人材の受け入れにおいては、企業がついていけていない部分が大きい、といった問題点をオプテージは投げかけます。これにはウエダ本社も同感で、「働き方の変革などは、役員など全体の2割には浸透しても、その動きを残りの8割につなげていくのが難しい、といった声はよく聞いている。これを改善する取り組み自体に、大きな可能性が秘められていると思う」と、大きな伸びしろが秘められていることを指摘しました。

  • 南田修司さんNPO法人G-net 代表理事
    1984年奈良県生まれ。2009年にNPO法人G-netに加入し、2017年から代表理事に。長期実践型の「ホンキ系インターンシップ」や、中小企業の右腕人材に特化した新卒採用支援、「ふるさと兼業」の3つの事業を柱に、地域と若者をつなぐ新たな仕組みづくりを進めている。
  • 多久田篤希さん株式会社愛起 取締役
    1992年愛知県生まれ。大手インテリア企業のロジスティクス部門で業務効率改善や新システムの導入などに従事した後、2019年に愛起に入社。後継ぎとして新規事業立ち上げと業務効率改善などに注力。家業のリソースを生かした新規事業を生み出すベンチャー型事業承継を目指す。
  • 小林遼香さんPR会社 社員
    1995年兵庫県生まれ。大学卒業後、大手通信会社に勤務。ふるさと兼業で出会った飛騨市ファンクラブで、広報PRに従事したことがきっかけとなり、PR会社に転職。学生時代、演劇・映画を学んできたことで「世の中をストーリーで元気にしたい!」という思いを持つ。
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