
2020.11.26
【活動レポート・前編】「“ちょうどいい”働き方・働く場」を探索してたどり着いた2つの仮説
関西を中心に社会課題の解決への糸口を探るプロジェクトとしてはじめた「コ・アップデート・関西」。2020年度は、南海電気鉄道、ウエダ本社、RE EDITのみなさんを共に探索に取り組むプロジェクトメンバーとして迎え、対話を重ねてきました。
今回は、2020年度の活動を振り返る中間成果発表の意味を込め、これまでの気付きから自分たちがブラッシュアップしてきた「"ちょうどいい"働き方・働く場」に対する仮説を整理します。また後編では、仮説と現状の差異や、今後探索していきたいことをテーマにディスカッションを行いました。是非合わせてご覧ください。
急激な変化のなか、"ちょうどいい"にこだわった理由
日本では、2010年代後半から本格的な議論がはじまった印象の強い、企業の働き方改革。プロジェクトメンバーも働く当事者として、少し先の働き方やそれに伴う組織・制度の変化の兆しを探索していきたいと高い関心を持っていたトピックです。
ところが4月以降、新型コロナウイルスの感染対策として在宅勤務やリモートワークが推奨されるようになり、プロジェクトメンバーも完全リモートワークやローテーション出社に移行。コ・アップデート・関西のミーティングや取材も全てweb会議で実施するなど、私たち自身も変化の渦中に置かれました。
自宅でも多くの業務が進められる実感や、通勤や移動時間を他のことに充てられるといったリモートワークのよい面を発見する一方で、自宅の執務環境の整備やこれまで何気なく行っていた社内コミュニケーションが減少するなど、オフィスだから意識せずにすんでいたことにも目が向くようになりました。世間でもまた、オフィスを手放し完全リモートワークに移行する企業や、オフィス出社に戻っていく企業、リモートワークを導入できない企業と、さまざまな動きが報じられました。
そういった体感と世間の動きから、今まさに自分たちの中にも生まれている疑問を解消し、選択肢のよい面と悪い面を知ったうえで落としどころを探りたいと設定したテーマが「"ちょうどいい"働き方・働く場」です。急激なリモートワークへの移行、その反動から人と会うことやオフィスで時間をともにする「対面の価値」が見直されたりと、価値観の変化と揺り戻しを経ながら、リモートワークとオフィスワークの変化はどのように収束していくのだろう。こうして私たちは、多様なメンバーとともに自分たちなりの"ちょうどいい"着地点の探索をはじめました。
インタビューやディスカッションを経て、徐々にたまる知見
コ・アップデート・関西の探索活動は基本として4つのステップを踏み、進んでいきます。
コ・アップデート・関西の探索活動プロセスと目的
上期に行った取材活動は<知る>の識者インタビュー2本と、<聞く>の当事者インタビューの2本。
<知る>
これからの「働き方」は、あらゆることの「いいとこどり」でつくられる
近年の働き方改革の状況や課題を広く知り、急速に進む変化を俯瞰的に捉えるため、まずは人材開発・組織開発の専門家である立教大学経営学部教授の中原淳さんに話を伺いました。リモートワークを含めた多様な選択肢が出てくることで、働く人と企業の双方にメリットがあり、より多くの人が自ら働き方をつくっていく未来の示唆をいただきました。
これからの「働く場」は、それぞれがオーナーシップを持って決めていく
働き方と場に関する課題の全容を知った私たちは、さらに「場」の変化を深掘りするため、ワークプレイスデザインの専門家・京都工芸繊維大学教授の仲隆介さんと株式会社オカムラのメディア「WORK MILL」編集長・山田雄介さんによる対談を実施。オフィスの変化や機能、集う場所で得られる対面の価値を中心に対話いただき、「オフィスのあり方」を見直す必要性を感じさせてくれました。
<聞く>
オフィスや自宅に次ぐ選択肢として「サードプレイス」、特に郊外、自宅近郊にあるワークプレイスにも注目した私たちは、東京の郊外で創業支援やシェア施設運営を行う株式会社タウンキッチン代表・北池智一郎さんにインタビュー。都心に通勤していた人がまちのサードプレイスで仕事をし、地域の人と交わる機会が増えれば、地域活動のありようも変化していくのでは?という可能性について、ご経験を交えて話していただきました。
働き方も場も多様化していく。識者インタビューでのインプットから、新たな働き方のヒントとして話を伺ったのが、地方の企業と兼業人材をつなぐプラットフォーム「ふるさと兼業」を運営するNPO法人G-net代表理事の南田修司さんと、サービス利用者の多久田篤希さん、小林遼香さん。都市部の企業人材が地方の企業で兼業し、地域とのつながりやスキルアップ、やりがいを見つけていく新しい働き方について議論しました。
取材の合間には、プロジェクトメンバーで取材を振り返ったり、ディスカッションや仮説のブラッシュアップを重ねました。ワークショップもオンラインに移行し、共同作業が可能なクラウド型ホワイトボードツール・MURALなどを使用しました。
立教大学経営学部教授・中原淳さん取材後に「働き方や場にまつわる変化や兆し」への気付きをシェア後、組織単位と抽象・具象の度合いで四象限に整理した
プロジェクトメンバーの働き方の変化も随時シェアし合い、「KEEP:継続したいこと」「PROBLEM:生じた課題」「TRY:今後試したいこと」に分けて分析
取材後の振り返りやプロジェクトメンバーの現況を共有することで、自分たちの関心がどちらに向かっているのかを明確にし、今後の取材の方向性を定めていきました。
このプロセスを経る中で、当初に立てた「"ちょうどいい"働き方・働く場」に対するイメージが徐々に具体化され輪郭を持ち、論点が2つに整理されていきました。
よりよい「働く場」づくりには、個人の「オーナーシップ」がカギに
一つ目の論点は、やはり新型コロナウイルス感染症の流行による「働く場」の変化。
リモートワークの推進によって、より多くの人の働く場の選択肢に加わった自宅とサードプレイス。コロナ禍による強制的な変化ではありましたが、仕事の効率やワークライフバランスのとりやすさといった面で、この2つを選べるようになった価値は大きいといえるでしょう。コ・アップデート・関西では2019年度より「空き家活用」をテーマに探索を行っており、地域活動の活性化への関心も高く、働く人と地域との交わりといった偶発性が生まれる「サードプレイスの新たな可能性」にも注目しています。
一方で取材に共通していた内容に、オフィスで起こっていた「対面のコミュニケーションの価値」も見逃すべきではないという示唆がありました。空間を共にすることで暗黙知を伝える教育的な面や、偶発的なコミュニケーションの積み重ねがイノベーションのきっかけを生むなど、一度離れたことで見つめ直されるようになった多面的な価値があります。単に執務を行うのであれば自宅やサードプレイスでも代替可能となった現在、社員が集い「相互作用を生む場」として適したオフィスのあり方を見直す必要が出てきていますが、今後も重要な働く場のひとつであることには変わりないといえます。
これらの選択肢を持つうえで、今後より重要になるのが「個人がオーナーシップを持つ」こと。各人が自身やチームの仕事の本質を理解し、より自律的に場を組み合わせていくことが、これからの働きやすさをつくっていくのだと整理しました。
オフィスワークとリモートワークの利点を選びとっていく
二つ目の論点は、オフィスワークとリモートワークの役割や使い分けはどのように定められていくのか。
オフィスには場のあり方を見直す必要が出てきていますが、リモートワークにも情報セキュリティ面のリスクや社内コミュニケーション量の減少による偶発性の低下といった課題、長期に渡って行うことで社員の帰属意識やモチベーションが低下していくなどの懸念があります。
しかし働き方が多様になることには、現在働いている人だけでなく、これまで就業しにくかった人々に働きやすい状況が生まれていくほか、企業にとっても長年の課題である人材不足・長時間労働の解決の一助になるという大きなメリットがあります。
今後、オフィスワーク・リモートワークそれぞれの課題が解決されていくことが期待されますが、現状は個人や組織がそれぞれの利点・課題を把握したうえで役割を決め、課題を補い合い、利点を選びとるように働き方をつくっていくことが重要なのではないかと考えます。
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上期の活動を経て、以上の2つの論点と仮説をまとめたプロジェクトメンバー。後編では、プロジェクトメンバーたちが所属企業や自身の働き方など実情を交えながらディスカッションします。リアルな働き方を伺うと、同じプロジェクトを推進するメンバーでも所属企業や個人によって状況は多種多様。ぜひご自身の働き方の変化とも照らし合わせながら、お楽しみください。
活動レポート・後編はこちら
(文/山下佳澄)
プロジェクト②”ちょうどいい”働き方・働く場
多様化する働き方、変化の先にフィットする働く場の在り方とは?
プロジェクト①空き家があるまちの未来
空き家や空きスペースを起点に、人口減少時代のまちづくりを考える
リサーチ関西から考える未来のビジネス
新たなテクノロジーやビジネスモデルにより関西の産業はどう変わるのか?変革の課題と可能性を探る