CO-UPDATE KANSAICO-UPDATE KANSAI

ってなに?

老舗BtoB企業が取り組んだ社員の意識を変えるオフィスづくり

プロジェクト② ”ちょうどいい”働き方・働く場

2020.12.25
老舗BtoB企業が取り組んだ
社員の意識を変えるオフィスづくり

働き方に対する社員の意識を変えるにはどんな方法があるのだろう? 今回の「CO-UPDATE KANSAI」は、地域の老舗BtoB企業が取り組んだ、社員の働き方と組織の改革を軸とする新しいオフィスづくりに注目。大阪・大阪市を拠点とする中西金属工業株式会社の本社敷地内交流スペース「Cross Park」と、福井・福井市で製造業を営む日華化学株式会社の研究開発拠点「NICCA イノベーションセンター」の取り組みを取り上げます。中西金属工業から輸送技事業部CAO・松永健一さん、人事総務部・近藤江里加さん、日華化学からシニアアドバイザー・吉田史朗さん、総務広報グループ・野田育代さんにお話を伺いました。

オンラインで実施した取材には、オプテージのほかにも、南海電気鉄道、ウエダ本社のみなさんが参加。社員を巻き込むワークショップからはじまった、両社の取り組みに熱心に耳を傾けました。

トップの危機意識から始まった、働き方と働く場の見直し

――日華化学は2017年に「NICCA イノベーションセンター(以下、NIC)」を、中西金属工業は2018年に「Cross Park」をそれぞれにつくられています。まずはその設立の経緯から伺いたいと思います。

吉田:当社の主な事業は、繊維加工用の界面活性剤などの化学品と美容室向けの頭髪用化粧品の開発・製造・販売です。NICは、当社が創業75周年を迎えた翌年、201711月に本社敷地内にてオープンしました。

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2017年11月にオープンした日華化学の研究センター「NICCA イノベーションセンター」。設計は小堀哲夫建築設計事務所。コンセプトは「知恵と技術をグローバルに交換できる新しいバザール」     

その背景にあったのは、2008年に起こったリーマンショック後の経営陣の危機感です。これまで順調にやってきたのに、何も手を出せずに赤字に陥るという経験をして、「同じことがもう一度起きれば会社は存続できない」と当時の社長も僕も強く感じました。

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NIC建設プロジェクトをリーダーとして牽引した、日華化学・シニアアドバイザーの吉田史朗さん。「楽しく働く」を誰よりも実践している方だ     

開発のスピードがどんどん速くなる時代ですから、これまでの自分たちだけでやろうとする自前主義ではなく、オープンイノベーションを意識した働き方に変えなければいけないと思いました。こうした経緯から、社員一人ひとりの意識改革と、社員が生き生きと働ける場づくりを並行して進めることにしたのです。

松永:Cross Parkのプロジェクトは、2024年に創業100周年を迎えるにあたり、本社屋の建て替えや敷地整理を検討するなかで始まりました。

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2018年6月に中西金属工業・本社敷地内にオープンした「Cross Park(クロスパーク)」。コ・アップデート・関西でも取材を行った京都工芸繊維大学教授の仲隆介さんを招き、産学協同で社内外が「交わる場」をつくった(撮影:笹の倉舎/笹倉洋平) 

当社には、さまざまな機械や自動車に使われるベアリングなどの部品をつくる軸受事業、自動車工場の生産ラインのコンベア設備をつくる輸送機事業、住宅関連部品などをつくる特機事業の3つの主力事業があります。各事業部は独立しており事業部間の人事異動もないため、人の交流が少ないことが悩みでした。

そこで、2008年頃に職場改善委員会を立ち上げ、偶然に社員が出会ったり話し、創出が起きる場をつくろうという活動が始まりました。Cross Parkは、オフィスをひとつの装置として考えて「交流が生まれやすい場をつくると社員はどんな行動を起こすか」という実験をしているところもあります。

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左から中西金属工業輸送機事業部・CAOの松永健一さん、人事総務部の近藤江里加さん。「Cross Park」プロジェクトにはじまりから関わってきた

近藤:当社のトップは、新たな主力事業の種になりうる新規事業開発にも取り組んでいます。「今後生き残っていくために、私たちは何を価値として創出していくのか?」を考えていくと、オープンイノベーションの土壌となるノウハウや人脈を共有するしくみが必要です。人が変わらなければ会社は変わらない。ボトムアップで改革を進めようという、トップの強い意向があって実現したのがCross Parkでした。

会社に対する当事者意識を育んだ、それぞれのワークショップ

――時代のスピードや市場変化に対して、両社ともにトップが強い危機感を抱くなかで社員の意識改革に注目されたこと、そのアプローチ方法として働く場の見直しを行われたことが共通しているのかなと思います。それぞれに、新しいオフィスづくりのプロジェクトをどのように進められたのか教えてください。

吉田:まず、若手社員を中心に各部署から約40名を選び、プロジェクトチームを立ち上げました。できるだけ多くの社員が参加できるように途中でメンバーチェンジも行いながら、建築家の小堀哲夫先生をはじめとするプロフェッショナルの方々にも参加してもらって全7回のワークショップをしたんです。このワークショップでの話し合いが、自分たちが納得する働き方を見つけていくで大きかったと思います。

「自分たちの成功パターンの延長線上で働いていくのはまずいんだ」という問題意識をもってもらうと同時に、「どうせなら楽しく働きたいね」という感覚を共有したいと考え、役員以下の全社員に「ハッピーワークプレイスをつくろう」と説明していました。

ワークショップで制作されたミュージックビデオ_article05.jpg

7回のワークショップのキックオフは「プロジェクトメンバーでミュージックビデオをつくる」というワーク。ファレル・ウィリアムスの『HAPPY』をノリノリで踊ったそうです!

オプテージ:ワークショップはどんなふうに企画・運営されたのでしょうか?

吉田:まず相談したのは、読売広告社R&D局(当時)の杉本浩二さん。そして、「プレイフルシンキング」という考え方を広めておられる、同志社女子大学名誉教授の上田信行先生にワークショップを依頼しました。僕からは「最大公約数はとらないし、多数決で決めることもしない。100人中99人が賛成しても、嫌だという人が1人でもいるなら一緒に考えよう」と伝えていましたね。ワークショップは全ての回を映像やレポートなどの記録に残し、全社に共有できるようにしました。

――Cross Parkをつくるプロセスではどんな取り組みをされたのでしょうか。

近藤:Cross Parkは、100周年に向けた新社屋プロジェクトの一環で行った、ワークプレイス改革のためのワークショップから生まれました。ワークショップは、 京都工芸繊維大学教授の仲隆介先生と研究室の学生さんにファシリテートしていただきました。「どういうスペースがほしいか」と社員の要望を付箋に書いて整理したり、他社のオフィス事例をインプットしたり。一泊二日の合宿では、「交流スペースにお金をかける意味はあるのか?」という意見も出るなか、喧々囂々の議論をしました。

Cross Park」という名前は、仲研究室の学生さんのご提案です。「バラバラな事業部が交わる場にしたい」「外部の方たちとも交わる場所をつくろう」というコンセプトを元に、さまざまな人々が集まる公園をイメージしたデザインにしていただきました。

会社にオープンな場があれば社内外との関係性が変わっていく

――オフィスづくりのプロセスに参加すると、「自分たちの空間だ」という意識も育まれるのではないかと思います。完成後は、どんな使われ方が見られたのでしょうか。

松永:コーヒーを飲んで気持ちを切り替えたり、「Cross Parkでごはん食べよう」と集まったり。部ごとの忘年会や歓送迎会、成果報告会などの場にもなっています。仕事以外でも、書道教室やマッサージなど「何かを体験できるスペース」としても定着してきましたし、社外から講師を招いたセミナーなどいろんなイベントが開かれていますね。自社および協力・グループ会社の製品展示もしており、ショールームとしても機能しています。実は、うちはネコの社員が2匹いまして(笑)。当社のペット用品の展示を担当してくれています。

Cross Park内のキッチンの様子_article06.jpg

ソファースペースや打ち合わせに使えるフリーアドレスエリアのほかキッチンも備え付けられており、コーヒーブレイクなど自由な使い方ができる(撮影:笹の倉舎/笹倉洋平)

キャットステップの商品展示_article07.jpg

特機事業部が手掛けるペット用品「Catroad+」。ネコ社員が愛らしさを振りまくとともにキャットステップをPRしている(撮影:笹の倉舎/笹倉洋平)

また、今年の秋には、大阪商工会議所による異業種企業の共同実験場「コモングラウンド・リビングラボ」をCross Park横に設置する予定。社外の取り組みやイベントの場としても使われています。

吉田:NICは、世界中から人が集まってきてわいわいがやがや、活発に議論してイノベーションが生まれてほしいという思いから、知恵と技術をグローバルに交換できる「BAZAAR(市場)」をテーマにしました。4フロアで約7300平米のビルですが、間仕切りはほとんどつくっていません。役員室は社長室だけ、あとは全てフリーアドレスです。今までは電話やメールで済ませていた打ち合わせを、相手の席に行って直接話すようになりました。

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NICのフリーアドレスエリア「コモンズ」。机は可動式なので必要に応じて組み替え可能だ

実験室とオープンな廊下_article09.jpg

ガラス張りの実験室と、社員間の偶発的な出会いを生むように設計された廊下。オープンな研究開発のための環境が整えられている

部門間の交流も起きています。あるとき、化粧品部門の研究トップがわざと化学品部門のフリーアドレスに陣取って仕事をはじめたんです。お互いのフロアを行き来するなかで、ヘアケア製品の素材開発を共同で行うことになり、業界で表彰されるようなよい商品が生まれました。自分たちの力をお互いにチア・アップしあう場になりつつあるのは間違いないと思います。

また、NICが日本建築大賞(2018年度)をいただいたこともあり、開所から2年あまりで見学者が1万人を超えました。今までわざわざ福井まではいらっしゃらなかった得意先のトップの方たちも、「新しいNICを見に行こうか」と来てくださる。改めて「日華化学はこんな事業もしているのか」と知っていただけて、新しいプロジェクトが始まることもあります。

松永:当社も対外的な印象が飛躍的にあがりました。人事採用では「こんなおしゃれなところで働けるんですか?」と言ってもらえますし、協力会社さんも打ち合わせにお招きすると喜んでくれます。メディアでも取り上げられていますし、広告宣伝費として考えると十分な費用対効果があるのかなと思います。

吉田:すぐ近くにある福井大学の学生たちが「こんな場所があるなら働きたい」と直接言ってくれるので、社員たちは「いところで働いているんだな」と思うようです。Cross Parkに関わられた仲先生も見学に来られ、社員が先生の研究に協力しました。場のもつ効用は大きいですね

しかし、いオフィスができたからといって、全ての社員の働き方が急に変わるわけではありません。おそらくまだ、20人くらいの社員の働き方がやっと7割程度変わったくらいではないでしょうか。時間をかけてじっくりじっくり変わっていくんだろうと思います。

社員を巻き込みながら、場のコンセプトを浸透させる

――社員の意識改革を目的とした場ですので、みなさんがおっしゃるように場をつくるだけでなく、運用が重要なのだなと思います。場のコンセプトを社員に浸透させるために、どんな工夫をしておられますか?

近藤:Cross Park完成後に、「どういうことをしたらみんなが集まるか」を話し合うなかで、松永がすごく面白い企画を考えてくれたんです。

松永:社内には反対意見もありましたし、当初は「いつ利用したらよいのかからない」とう若手社員もいたんです。「無料でおいしいコーヒーを飲めるし、いスピーカーで音楽を聴けるし、こんなおしゃれでい場所を使わないのはもったいないでしょ?」と全社員に認知してもらう方法をメンバーで考えた結果、お昼休みにトマトの試食イベントを企画しました。

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松永さんが企画したトマトの試食イベント。こだわりの会場設営とおいしい料理で社員の心と胃袋を掴みつつ、Cross Parkのコンセプトを説明する時間も設けた

当社では156の新規事業を行っており、そのなかにトマト栽培の事業が当時あったのですが、社内でもあまり知られていなかったんです。そこで、料理が得意な男性社員がシェフ、僕がウェイターを担当し、ビシッとおしゃれに飾り付けて、女性社員を中心に声をかけたら大盛況になりました。

そのときに、Cross Parkのコンセプトを説明する時間もつくって「仕事以外の時間に集まると会社に知り合いが増えて楽しいよね。ほかの事業部に知り合いがいると電話や立ち話もしやすいよね」と話しました。事業部間のコラボレーションやイノベーション創出の手前にある「社内に知り合いをつくること」から一歩を始めたんです。大小のイベントを地道に繰り返すことで、就業前・終業後、お昼休みにはずっと誰かがいるような状況になりました。

――NICでもイベントの開催、あるいは会場提供などは行われていますか?

吉田:テレビCMの撮影にNICを使いたいというオファーがあり、社員がエキストラ出演しました。また、福井の文化風土や産業を探索し、社会の動きを洞察しながら新たなプロジェクトを創出する「XSCHOOL」の最終発表会の会場として提供。社員も意見交換に参加しました。かつてなら考えられない外部とのコラボレーションですが、経営者含めて前向きに取り組んでいますし、そこで得られるものも大きいと実感しています。きっとこの流れはこれからも止まらないと思いますね。

XSCHOOLの最終発表会の様子_article11.jpg

NIC1階の「ガーデンスクエア」で、120日間に及ぶXSCHOOLの最終発表会が行われた

コロナ禍で見えた可変性の高いオフィスの強み

――コロナ禍以降、人が集まる場の運営は難しくなっています。オフィスの使われ方の変化はあるでしょうか。

松永:大阪は非常事態宣言が発令されましたし、Cross Parkでのイベントはもちろん、出社自体ができない時期もありました。現在もリモートワークをする社員は50%前後で推移している状況です。ただ、面白いのはCross Parkがオンライン会議のスポットになっているんです。仕切られた場所もありますし、背景に写り込んだ空間もかっこいい。自席でやってもよい打ち合わせも、Cross Parkのソファに座ってやる社員の姿が見受けられます。また、出社していてもWEB会議であれば資料の共有閲覧がしやすく、会議室を予約する手間がいらないので、ふらっとCross Parkに集まってきてさっと打ち合わせをする、という動きも出てきました。変化に合わせて上手に使ってくれているのかなと思います。

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コロナ禍以降もソーシャルディスタンスを保ちながら、社員それぞれが工夫して利用を継続できているのは、オープンで広々としたスペースだからこそ

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集中作業やオンライン会議に適した、区切られたスペースも(撮影:笹の倉舎/笹倉洋平)

吉田:NICも最初の目的だった「みんなでわいわいがやがや」はできなくなりました。中西金属工業さんと同じで、50%くらいがリモートワークをしているので、時間にゆとりができた社員が多く、「今までやってきたことはこれでよかったのか?」と原点に返って考える人が増えているのはよいことだと思います。

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研究や考えごとに集中したいときのために、「コモンズ」の周囲には小さな「こもりスペース」が設けられている

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目的に合わせて自由に使われている「多目的スペース」。こちらもフリーアドレスのため、コロナ禍以降も対角に座ったりとソーシャルディスタンスを保った執務が可能

また、NICは間仕切りのないオープンな空間で、机は天板一枚で袖机もありません。いかようにもレイアウトを変えられるので、コロナ対策もすぐにできたのは幸いだったと思います。

――コロナ禍以降について、課題として感じておられることはありますか。

近藤:Cross Parkをつくった2018年にはまったく想定していなかった事態です。ただ、当社は2016年からテレワークの推進を経営戦略の重要な項目に位置付けてきました。会社としては、今後はテレワークを活用した新事業や事業部内の成長戦略をつくっていくことが、目下の課題にはなっていると思います。Cross Parkでは、ソーシャル・ディスタンスを保ちながら行えるイベントや教室は復活したものの、それ以外の使い方については現時点では優先順位が下がってしまった感じはありますね。

吉田:オンラインだけでは時間をかけても、コミュニケーションがそう深まらないなと感じています。すでに信頼関係を構築できている相手であれば、オンラインでも深くコミュニケーションができますが、そうでない方とは決まり切った仕事の話で終わってしまう。これから課題になるのは、マインドのディスタンスをいかに縮めていくかだと思いますね。

我々の場合は、せっかくNICをつくって「みんながつながって共創する」という考え方のもとにプロジェクトを進めているので、次はその連鎖をプロデュースしていかなければならない。イベントを開くと同時に、その後のつながりを紡ぐプロセスまでを含めて企画を考えたいですね。

老舗企業だからこそ、変化に抵抗のない風土がある

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コンセプトにこめた思い、運営するなかで感じる課題など、共通点を発見することも多かった座談会。終了後は「お互いの場所を訪問・見学できれば」という話も出た

――製造業という非常に地に足の着いた事業領域の老舗企業であることから「今まで通りでい」と考える方も多かったのではないかと思います。にもかかわらず、このような改革を推進できたのはどうしてだったのでしょうか。

松永:もともと、変化することに抵抗がない社内風土があったのだと思います。例えば、私が所属する輸送機事業部のクライアントは非常に変革の大きい自動車業界です。常に新しいことに対応しようとする土壌はあったのだと思います。

近藤:それと同時に、会社全体で見るといわゆる尖った人材が育ちにくいといわれるメーカーとしての風土もあります。クライアントに対する誠実な姿勢と、要求に対し徹底的に成果を出すことが弊社の強みだと考えていますが、自らの判断で改革に対して自律的に行動するリーダーシップも重要です。そういった人材の育成にこれからますます力を入れていく必要がありますが、まだまだ時間がかかるかなとも思います。ただ、Cross Parkができてから、変化に前向きな新入社員も多く入社していますので、若い社員から徐々に文化が変わっているのは感じますね。

最近、創業100周年に向けたプロジェクトのなかで、「会社は"変わらなければいけない"と言うけれど、自分たちは本当に変わっていないんだろうか?」という議論をしました。オフィスを変えたことによって、そこに紐付く会社の文化・風土がどう変化したのかを認識して、自分たちのアイデンティティを再定義しようという動きはすごく面白いなと思います。

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日華化学 総務広報グループの野田育代さん。NIC建設プロジェクトには事務局として参加し、現在はNICの施設管理業務を担当。ハード面から働き方を支援する

野田:私たちも、お客さまの課題に向き合って、研究開発から営業までが力を合わせて解決してきた会社なので、全員で知恵を出し合う風土がもともとあったと思います。本来、研究開発の現場はクローズドであることが多いのですが、当社の歴代経営者は開発の現場にお客さまを招き、一緒に意見を出し合っていこうという意識がありました。このような会社の文化風土をベースとして、開発スピードを上げていくために、NICには人や情報の行き来ができる工夫を織り込んでいきました。

吉田:「新しい事業を立ち上げよう」「オープンイノベーションをしよう」というときに、どこかから人やノウハウを連れてこようとするのは、要するにいものねだりだと思います。経営者がないものねだりをしている限り思い切った改革はできません。自社の社員をチア・アップして、彼らが持っている力をフルに出せる場を用意するのが経営の仕事です。

過去のものまねも、いものねだりの人頼みも通用しない。だったら、「いかに、今あるものから新しいものを再発見するか」だと思う今日この頃です。

エンゲージメントを求めるよりも「楽しさ」で社員を巻き込んでいく

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社内外の人とのつながりや共創を「楽しむ」ことを重視するという吉田さんの発言に、取材メンバー一同深くうなずきました

近藤:当社の悩みとしては、常にトップが変革に前向きで、福利厚生なども充実しているがゆえに、社員の満足度が高く「会社を変えていこう」という機運が生まれにくいことです。日華化学さんは、社員の意識改革を進めていくなかで、当事者意識の育み方についてどう考えておられますか?

吉田:会社を変えることについて、自分ごと化するところまでのめり込んでいかない社員の方は、常に半数近くはいると思うんですね。そこをボトムアップするのはちょっと難しいと思います。NICのテーマを「ハッピーワークプレイス」としたのは、「楽しいか、楽しくないか」という非常に単純な感情で乗ってきてほしいと考えたからです。

経営者はよく「エンゲージメントを高めろ」 と言うのですが、その裏側にある思惑がはっきりしないと嘘になるなと思っています。社員同士、あるいは外部の人たちとつながり、交流しながら共創することを、進んで楽しんでもらうことが大事じゃないでしょうか。

野田:NICのプロジェクトに40名のメンバーがワークショップに参加するなかで、「自分たちで気づきを得てアクションを起こさなければ」と思った方が少数ながらいらっしゃいました。また、今実施している「MO-SO活動」は外部講師の方との出会いがきっかけで始まりました。個人の好きなことと会社の技術、NICを組み合わせて何かを生み出すことを考える自発的な活動です。こういった実感や外部刺激による活動が連鎖していくことがNICにとって大事なのかなと思います。

松永:今、おふたりがおっしゃったことにすごく共感しました。難しいことを言って社員の方に理解してもらおうとするより、単純に「面白い仕事をしよう」と訴えかけていくことが大事ですね。

聞き手/オプテージ 霜野佑介、下田平卓也、辻善太郎、布本泰朗、津田幸亮、南海電気鉄道 粉川純一、ウエダ本社 王智英、浅井葉月

(文/杉本恭子)

編集後記

新しいオフィスづくりのプロセスから、現在進行形で進んでいる社員の意識変化まで、成功だけでなく課題の部分までを聞けたことに、メンバー一同大きな刺激を受け「状況が整い次第、NICとCross Parkの見学をしに行きたい」と盛り上がりました。

とりわけ、社員を巻き込むキーワードとして吉田さんが挙げていた「楽しさ」には、CO-UPDATE KANSAIのメンバー全員が深くうなずくところがあったよう。オプテージは「コンセプトから巻き込もうとすると敬遠されることがある。楽しさを共通言語にするのは、リアルな場もITツールでも同じではないか」とコメント。また「場づくりを重視する会社でも、リモートワークと出社をかけあわせたハイブリッドワークをしていることは大きな気付きになった」と話ました。ウエダ本社は「両社共にトップに推進力があり、なおかつ現場の意見を汲み取って実現していくキーパーソンがいた。自分たちが提案すべきはこういう人たちだと思う」と本業でのアプローチ方法のヒントを見出したようです。

  • 吉田史朗さん日華化学株式会社 シニアアドバイザー
    1982年日華化学入社。デミ化粧品事業部などを経て日華化学常務取締役に就任。NICCAイノベーションセンターの建設プロジェクトのリーダーを務める。マーケティング学を深め、五大学連携など地域活動にも参加し異端者ぶりを発揮している。
  • 野田育代さん日華化学株式会社 総務広報グループ
    1990年日華化学入社。経営企画部所属時に、NIC建設プロジェクトの事務局として参加。現在は施設管理業務を担当し、ハード面から働き方をサポートする。
  • 松永健一さん中西金属工業株式会社 輸送機事業部CAO
    1998年入社。現在は、全社の業務運用改革に関わるほか、輸送機事業部のティール組織タスクフォースのCAOとして、ティール組織導入にも取り組む。
  • 近藤江里加さん中西金属工業株式会社 人事総務部 人事グループ
    外資系企業のシステムエンジニアとして働いたのち、2016年に入社。海外人事と働き方改革、ダイバーシティ推進など、全社横断型のプロジェクトに取り組む。
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