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ってなに?

元空き家のホテルから始まる商店街活性化! 仕掛け人は、大工の棟梁集団

プロジェクト① 空き家があるまちの未来

元空き家のホテルから始まる商店街活性化!
仕掛け人は、大工の棟梁集団

かつて東海道の主要な宿場町として栄え、多くの旅人が出入りした滋賀県大津市。現在も駅前をはじめ、地元の人から愛される多くの商店街が営業している反面、市外や県外からの来訪者は減少しているそうです。2018年、そんな駅前商店街にホテル「講 大津百町」(以下、ホテル講)が誕生しました。
ホテル講は、商店街の空き家を含む物件7棟を改装した宿泊施設。手がけたのは、滋賀県竜王町に本社を構える株式会社 木の専門店 谷口工務店です。ホテル講のオープンに先駆け、2016年には大津駅前に京滋支社兼ショールーム「大津百町スタジオ」を立ち上げました。

空き家活用が商店街にどのような影響を与えたのか? その答えを求め、大津百町スタジオを訪問したオプテージ。谷口工務店・谷口弘和代表取締役と、谷口さんと地域との懸け橋となった一級建築士・柴山直子さん、そしてホテル講に物件を提供した山岡京さんに迎えていただき、地域活性化の立役者とまちに住む方の双方から話を伺いました。

(聞き手/オプテージ 霜野佑介、下田平卓也)

大工の棟梁たちが、大津市の地域活性化へ着手

霜野:竜王に本社を構える谷口工務店が、なぜ大津駅前に大津百町スタジオをつくられたのですか?

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「愛のある志事」をモットーに木造建築を手がける谷口工務店代表の谷口さん。営業を介さず、顧客と造り手をつなぐ姿勢が大きな特徴

谷口:私たち谷口工務店は、大工と設計士からなる技術者集団です。
かつて、まちには建築の設計から建設まで全てを取り仕切る大工の棟梁がいました。彼らは、建築を通してまちづくりを縁の下から支える重要な役割を担っていたんです。しかし今では分業制が進み、下請けをこなすだけの大工が増え、棟梁が減ってしまった。私たちは、そんな棟梁の文化を再興することを目指し、営業を介さず全てを取り仕切る大工と設計士を育てるというスタイルにこだわっています。
大津市への進出は、本社を置く滋賀県竜王町から業務を拡大し、県庁所在地に支社を構えようと決心したのがきっかけでした。しかし、物件探しのため大津を訪れた際に見たのは、駅前の寂れた商店街。「京都から電車でわずか10分の距離なのになぜ......」と思うとともに、「商店街の景気が底を打っている今だからこそ、新しいことを立ち上げたら面白そうだ!」と感じたんです。

下田平:では、それまで大津市に伝手や縁があったわけではなかったんですね。どのようにして、空き家を見つけたのですか?

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取材を行わせていただいた京滋大津支社兼ショールーム「大津百町スタジオ」。普段はカフェとして、地域の方や観光客に開かれている

谷口:まず空き家情報提供サイトに問い合わせましたが、条件の合う物件が見つからず、商店街のお宅を訪問してもいぶかしがられるばかりで、結果は散々でした。そんなとき、町家保全を行う市民活動の拠点になっている「まちづくり大津百町館」の当番の方に話をしたところ、物件を紹介してもらえたんです。それを皮切りに、柴山さんをはじめ、大津市のまちづくりに関わる方々とつながりができ、情報が入ってくるようになりました。そんな流れで紹介されたのが、店を畳むという和菓子屋さんでした。物件は町家で駅前という立地、間取りも悪くない。建物はかなり傷んでいましたが、すぐに契約を結び、改修を行いました。そうしてできたのがこの場所、大津百町スタジオです。

谷口工務店を後押しした、まちづくりに携わる人たちとのつながり

霜野:どういったきっかけで、ホテルづくりに着手されたのでしょうか?

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「オプテージが摂津市で進めている空き家活用プロジェクトでも物件探しに苦労している」とアドバイスを求めるオプテージ霜野

谷口:拠点はできましたが、「もっと面白いことができるはずだ!」とは思っていました。そこで、いろいろな経営者が集まる勉強会で出会った方に相談してみたところ、「大津のまちをホテルに見立て、商店街ホテルをつくってみては」とアドバイスをいただいたんです。
ただ、ホテルとなると資金の問題も大きい。銀行に融資を頼んでも断られるばかりで、国からの助成金も政治の思惑が入ってきそうだと躊躇していました。そんなときに助けてくださったのが柴山さんです。

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大津の景観や町家の保全にかねてから尽力していた柴山さん。谷口さんと地域をつなぐキーパーソンとなった

柴山:私は学生時代に京町家の再生について学んでいて、夫との結婚が縁で大津に越してきました。今住んでいる家も、古くから傘・提灯屋を営む町家です。
一級建築士として町家のリノベーションを手掛けているほか、NPO法人日本民家再生協会の近畿事務局も任されており、このNPOに谷口さんが加盟されたことがきっかけで知り合いました。
実は、はじめに問い合わせされた空き家情報提供サイトの情報も耳に入っていて、「この人は本気で空き家再生に取り組もうとしている」と感じていました。なので、「イニシャルコストだけでも補助金を使ってみては?」と、経済産業省が交付している中心市街地活性化事業の補助金を紹介したんです。

谷口:これで資金面の目処がつき物件を探し始めましたが、宿泊施設という点に難色を示す住民の方もいました。夜間の騒音や、観光客が増えることでの環境の変化への不安ですね。

柴山:ただ、大津はもともと商売人のまち。何か決めるときには話し合いを持つという風土が残っています。谷口さんには2度の説明会を行ってもらい、住民も都度集まって納得いくまで話し合いました。

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旧街道沿いにレセプションを構えるホテル講。一棟貸しのタイプが5棟に部屋貸しが2棟。現在7棟13室で営業を行っている

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一般的にも、古民家の改修には新築より多くの手間がかかると言われる。築100年を超える町家など、高い技術が必要な改修に大工集団が一丸となって挑んだ

谷口:そうしてみなさんに理解をいただき、空き家物件に問い合わせたり、大津百町館や柴山さんの力を借りて見つけたのが6軒、さらにまちの方から「使ってほしい」と提供いただいたのが1軒。これが山岡さんのご実家で、現在の「糀屋(こうじや)」です。

改修された町家に共感した地域の人たちが動きはじめる

山岡:私もかねてから、寂れていく商店街をどうにかしたいと思っていたんです。そんな折にオープンした大津百町スタジオを訪ねたところ、引き戸を引いた瞬間、町家の土間に吹く夏の風を感じました。「ここを作った人たちは、町家の良さを分かってくれている」と肌で感じたんです。

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山岡さんは大津のまちを着物で歩くツアーを主催しており、イベントの際は大津百町スタジオを着付けの場として利用している

私の実家は昔、花街のお茶屋さんを営んでいて、その後妹が継いでいたのですが、谷口さんなら今よりもっと町家らしく活用してくださるのではと思い、物件提供を決めました。「かつての賑わいを、もう一度取り戻す機会になるのなら」という気持ちが強かったですね。

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かつては山岡さんのご実家である町家だった「糀屋」。伝統的な建築手法で、趣のある空間と生まれ変わっている

下田平:ホテルとなったご実家を見られて、どのように感じられましたか?

山岡:最初に建てたときに大工さんが工夫を凝らしてくれた所がしっかり残っていて、とても感動的なリフォームだと思いました。今も糀屋の隣に妹が住んでいるので、寄ったときには、宿泊客の方が大津や商店街を楽しんでくれているかなと気にしていますね。ごあいさつやお話をすることもありますよ。

周辺都市からの急速な人の流入が招く、大津市の町家文化の消失

下田平:大津には、空き家が多いのでしょうか。現在の大津を取り巻く空き家の状況について教えていただけますか?

柴山:大津にも空き家は多く、なにより築100年を超える町家も少なくないのですが、この再生に大きな問題が立ち上がっています。現在、観光客を積極的に誘致している京都にはホテルが急増していて、これが招いた地価の高騰から、経営に苦しむ不動産企業が大津に大量に押し寄せているんです。
この不動産業者による建物の扱いが問題で、古い建物の傷みや不備は瑕疵担保責任から仲介者の責任になるため、修理せずに潰してしまうことが多く......、大津の歴史ある町家が一気に姿を消しているんです。

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一大観光地である京都からすぐという立地が、大津の伝統建築や旧来の文化に暗い影を落としている

山岡:私の住んでいた長等学区も状況は同じです。どこかで見たようなコンセプトでまちおこしをしても仕方がないのに、単なるビジネスとして捉えている人たちが多いのではないでしょうか。
まちを活性化するなら、谷口さんのように地域に入り、住民と話をしながら独自の路線を開いていただきたい。それなら、私たちも進んでお手伝いできます。

豊かな地域のあり方とは、生き生きと商いができ、ゆるやかに変化すること

下田平:ホテル講では、商店街を巡るツアーなどを実施され、宿泊客と商店街の方々との接点を増やそうとされているとか。谷口さんは、どのような意図でこういったことに取り組まれているのですか?

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ホテルから出ると、そこは地元の人が行き交う商店街。淡水魚を扱う商店などもあり、琵琶湖が近い大津のリアルな暮らしが感じられる

谷口:私たちが大津で事業を展開しているのは、まちの未来を共に担い、活気を取り戻すことで、 「まちの棟梁」になりたいという思いがあるからです。それにはみなさんからの信頼が不可欠ですね。
その一環として行っているのが、商店街の食べ歩きツアーです。先日、琵琶湖の魚を使う佃煮屋さんに5000円ほどの盛り合わせを作ってもらったところ、これが実に美味しくて! つまみにしながらお酒を飲んでいると、店主がニコニコとしながら味の秘訣を語ってくれました。経済効果というとたった5000円かもしれませんが、まちの活性化には十分なのかもしれません。重要なのは、このまちの方々が生き生きと商売ができるサポートをすること。10年先を見据え、まちと私たちが一緒に栄えていきたいんです。

下田平:こういった変化は、商店街の方からはどのように受け止められているのでしょうか?

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「ITはあくまで手段。私たちの技術がどう役立つか、地域に深く関わる方々と一緒に考えたいです」とオプテージ下田平

柴山:私の住む京町通り沿いは、地域の祭りである「大津祭」の曳山をもっており、結束の硬い地域です。景観にも気を配る方が多いので、谷口さんが起こした変革に賛同している人も多いですね。みんな声には出しませんが、静かに感謝していますよ。
大津は伝統のあるまちなので、住民は急速な変化を嫌がります。その反面、商店や借家、お茶屋さんなどあらゆる商売が混在し、ひとつの商店街としてやってきたという寛容さも備えている。これらさまざまな形態の建物の活用法を考えつつ、緩やかに変化していくのが性に合っているのかもしれないですね。

山岡:この商店街にホテルができるなんて、想像もしていませんでした。町が寂れていることは分かっていても、すべきことが分からなかったんです。ホテル講ができ、これから商店街が努力すべき方向が明確になったと思います。

デジタルにできるのは、情報の一元化と旧来の文化の復興?

霜野:現在はホテルでの宿泊やツアーなどリアルな場を通じた変化が起こっている大津のまちですが、IT技術で地域活性を図っていこうという思いなどはありますか?

柴山:残念なことに、大津にはかつての歴史が史跡や建物として残っている場が少ないんです。それに地域の食や魅力も十分に発信できていない。こうした情報を一元化して伝えるアプリがあれば、まちの魅力がもっと可視化できるはず。特に海外から来る方はネットの情報を重視していますから、こうした取り組みは必須ですね。そのためにはアプリだけでなく、地域で使える質の高いFree wi-fiも必要です。

霜野ほかの観光地でも、行政や観光協会、民間がそれぞれ独自に情報を発信していて、情報のロスが生まれているように思います。観光客が滞在中にアクセスする情報は限られていますからね。地図とあらゆる観光情報を網羅するアプリというのは面白いですね。

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「昔はみんなツケだったよね!」。キャッシュレスのあり方に一石を投じるアイデアが登場!?

谷口:私が感じるのは、キャッシュレス化の問題。海外の方だけでなく、日本人も現金を持ち歩かなくなりつつありますが、個人商店でも、とくに高齢の方のお店ではキャッシュレス化が難しい。
例えば、「ツケ」なんてどうでしょう。手ぶらで商店街を回ってもらい、使った費用の決済はホテルで一度に行う。そんなシステムがあれば、スムーズに快適に、商店街を回れますよね。

下田平過去にあった習慣をアプリで再現するというのは、考えつかなかったアイデアです。新しいキャッシュレス決済の形が生まれるかもしれませんね!

(文/鷲巣謙介 写真/櫟原慎平 撮影協力/大津百町スタジオ)

話を聞いたオプテージ社員のコメント

ホテル講や大津百町スタジオを拝見し、まず建物の魅力がすごいと感じました。そこに使われている技術や細部までのこだわりを見れば、谷口さんが大津が持つ歴史という背景を大事に考え、町家を改修されたことが分かります。外から企業が入って来たときに、歓迎される方と批判される方がいますが、共に「自分たちの住む場所を大事にされている」点は変わらない。企業がまちづくりに参加する際、こうした地域が持つ背景を知り、地域の方の目線をしっかりと持ち続けることが大切だと認識できました。
座談会の最後にあがったツケのシステムは、非常に面白いアイデアだと思います。旧来の習慣とデジタルの融合によって、よりよいまちづくりが実現する。もしかしたらそんなアイデアのタネが、色々なところに潜んでいるのではないかというヒントをいただきました。

  • 谷口弘和さん株式会社 木の専門店 谷口工務店 代表取締役
    滋賀県竜王町生まれ。大工の棟梁をしていた父親の影響を受け大手ハウスメーカーに勤務。その後、「みんなが喜ぶ家づくり」を目指して谷口工務店を設立。大工40人、設計士30人の技術者集団を率い、住まいづくりから古民家再生や庭事業など、多彩な事業を手がける。
  • 柴山直子さん一級建築士・有限会社柴山建築研究所 代表取締役
    大学卒業後、大手建設会社に勤務。大津市の傘・提灯屋の10代目である夫と結婚後、大津市に移住。「暗くて寒くて汚い」町家は、「明るくて暖かくて綺麗」なものへと変えられるということを信念に、300年住み継げる町家の魅力を再発見する活動を続けている。
  • 山岡京さんmiyakoプロデュース
    大津市長等学区のお茶屋に生まれ、地域の花街の全盛期を見ながら幼少期を過ごす。谷口さんの町家改修に共感し、ホテル講へ物件提供をした。現在は大津市の観光案内所と連携し、着付けや町歩きを行うイベントなどを積極的に開催している。
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