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ってなに?

空き家をポジティブに語る!ここから始まる人口減少時代のまちづくり

プロジェクト① 空き家があるまちの未来

空き家をポジティブに語る!
ここから始まる人口減少時代のまちづくり

人口の減少によって農村部や山間部だけでなく、都市部でも増え続けている空き家。近年では、空き家が増えることによる経済的な損失や景観の悪化などが取り沙汰されることが多くなってきました。
2019年春、国が5年に1度実施する「住宅・土地統計調査」が発表され、国内の住宅に占める空き家の割合は過去最高の13.6%を記録しました。
こうした空き家の増加という現象に対して、私たちには何ができるのでしょうか。

関西出身で、現在は全国各地で空き家を生かしたまちづくりに取り組んでいる首都大学東京教授の饗庭(あいば)伸さんに、空き家が生まれる背景や空き家が持つ可能性について伺いました。
饗庭さんのお話から見えてきたもの、それはネガティブに捉えられている空き家が、実際は地域のコミュニティに新たな可能性をもたらす起爆剤となりうるという希望でした。

(聞き手/オプテージ 霜野佑介、下田平卓也)

空き家のように小さなところからまちを変えていこう

――そもそも饗庭さんが空き家に目を向け始めたきっかけは何だったのでしょうか。

饗庭さん
実際のまちづくりに携わりながら人口減少時代の都市計画について研究している大学東京教授の饗庭伸さん

饗庭:空き家問題にフォーカスを当て始めたのは2010年頃です。当時、私は大学に自分の研究室を持ったばかりで、まだ大きな都市開発などのプロジェクトに携わる段階ではありませんでした。ちょうその頃、私のところに来たのが「空き家をどうしたらよいでしょうか」という相談だったんです。
その相談を聞いている中で、これから人口減少が顕著になっていくので、高度経済成長期のような大規模な新規の都市開発は行われないだろう、そして将来的には都市を変えていくには空き家のような小さなところから始めていくべきなのだろうと感じたのがきっかけでした。

空き家はまちに新たな可能性を生み出すポジティブな存在?

――現在、空き家の問題は大きく取り沙汰されていますが、実際に空き家はどのようにしてできるのでしょうか。また空き家が増えることの何が問題となるのでしょうか。

饗庭さん
都市のスポンジ化は所有者の事情によってランダムにゆっくり進むと説明する饗庭さん

饗庭:まずは、都市がどう縮小していくかを考えてみましょうか。
私は、都市の「スポンジ化」という言葉をよく使うのですが、日本では都市が縮小していく時に、外側から縮んでいくのではなく、中に小さく穴が開いていく。この穴が空き家だったり、空き地だったりするわけです。
多くの場合、都市が拡大する前には広大な農地があって、都市の拡大に合わせてそれを何百にも分けて、住宅などに作り変えていきます。そうすると莫大な数の土地や建物の所有者が誕生します。その所有者がそれぞれの暮らしに合わせて建物を運営していくのですが、個々人の事情によって建て替えられなかったり継ぐ人がいなかったりして、バラバラとスポンジのように隙間が空いていくんです。

都市のスポンジ化の図
都市のスポンジ化都市は画一的に縮小する(上の図)のではなく、ランダムに穴が開くように空き家や空き地
が増えていく(下の図)。こうして無数の穴ができた状態を都市のスポンジ化という

こうしたプロセスは非常にゆっくり進行します。建物は増える時はわかりやすいのですが、減る時はぱっと見ではわからないのが特徴です。日本では、家を相続してもそこに住まなかったり建て替えの判断をしなかったりと、ずっと「空き家っぽい状態」でおいておかれることが多いんです。

ただ私は、こうした空き家の増加がメディアなどで言われるほど、深刻な問題となっているとは考えていないんです。
都市が過密状態であれば伝染病や火災などのリスクが高まりますが、反対にスポンジ化したとしても現代の日本であれば伝染病も起きにくいですし、火災なども空き家を放置さえしなければそれほど大きな問題にはなりません。空き家が増えているからといってすぐに何かしなければならないような危険な状態ではないんです。

そうした空き家を地域の人々の交流の場や、暮らしや仕事を支えるための場へと再生していくことができれば、コンパクトで機能的なまちづくりが可能だと思っています。今目の前にある空き家は、実際のところ「問題」ではなくて、再びまちや地方を元気なものに変えていく「チャンスや可能性」を持ったものであると私は考えています。

空き家を利用する人と、地域の人がともに楽しめる空き家の再生を

――これまで饗庭さんが行ってきた空き家の利活用プロジェクトでは、プロジェクトを成功させるためにどのような点を意識していたのか、実例とともにお話しいただけますか。

饗庭さん
空き家単体だけでなく地域全体の再生を目指してプロジェクトを進めるという

饗庭:私の取り組みは、大学での研究という性格もあるので、民間の方とはちょっと違ったことをしています。

例えば山形県鶴岡市で行ったプロジェクトがあります。
そこはかつての城下町で、当時のまち並みがほぼそのまま残っているようなまちでした。だから狭い道路や袋小路がたくさん。まずは地域の人とまちを歩き意見交換をしながら、空き家の再生方法を模索しました。空き家を地域で使える拠点にするだけでなく、空き家を除去してクランク状の狭い道をクルマが通りやすい道に変えるなどして、利便性の良くなった土地に居住者を呼び込むといったことを計画しました。

鶴岡市のプロジェクト
鶴岡市のプロジェクトではさまざまなツールを使いながら、まちづくりを考えていった

私が一番意識していることは、空き家は私のクライアントやパートナーのやりたいことの実現手段であるということ。鶴岡市のプロジェクトであれば、空き家は市役所の方や地域の方々のやりたいことを実現する手段です。空き家をかっこよくすることやゼロにすることが目的ではありません。空き家を通じて、何を解決して何を得ようとしているかは人によって違う。だから空き家の使い方もそれぞれなのです。これが私のまちづくりの基本的な方向性です。

ほかに重視していたのは地域の方の本音を聞くこと。空き家利活用の主人公はあくまで地域の方々です。その方々が例えば「公園がない」と声を上げたとして、では公園を作ればよいのかというとそうではないんです。見極めるべきなのは、「なぜ公園がほしいのか」ということ。例えば先ほどの一言にも実は「子ども世帯に地域に戻ってきてほしい」といった理由があるかもしれません。

東京都国立市で行った「やぼろじ」プロジェクトでは建築家やNPOの方々、空き家のオーナーさんとともに、空き家を利活用して、暮らしに関するさまざまな職能を持った人が集まる地域の拠点を作りました。
そこで気付かされたのは、日本の不動産は依然として所有権が強く、なかなか新たな動きが起きにくいということ。

やぼろじプロジェクト
やぼろじプロジェクトでは空き家のオーナーさんから家の歴史を教えてもらった上で、みんなで使い方を考えていった

双方のプロジェクトで気を付けていたのは、地域の人に「動きを知らせる」ことですね。空き家をリノベーションしても、その見た目が従来通りの普通の住宅だったら、「空いていたアパートに新しく人が入ってきた」くらいにしか地域の人は見てくれません。どうにかして「なんだかまちが変わったな」と地域の方が気づくような場所を作ろうと思っています。

そうして空き家を利用する人たちが面白い取り組みや生活を始めると、地域の人にとっても「何か新しいことが始まったぞ」というのが見えてくる。そうなると次第に「自分も参加してみたい」と思える。そんな、空き家を通した「面白さのお裾分け」ができるのが理想ですね。

鶴岡市や国立市の事例以外にも、空き家の利活用の仕方は実に多彩で、地域のコミュニティの拠点にしたり、アーティストや若者が情報発信を行う場にしたり、100の空き家があれば100通りの可能性があるのが魅力ですよね。

空き家再生に必要なのは、長い目で見て、考え、取り組む姿勢

――空き家の利活用に興味がある人が、活動を始めるためにはどうしたらいいのでしょうか。私たちオプテージも空き家の利活用を計画する中で、「空き家っぽい状態」の建物へのアプローチに悩んでいます。

空き家の利活用を考えている
オプテージでは大阪府摂津市を皮切りに空き家の利活用を考えている

饗庭:基本的に全ての建築物に異なる所有者がいますから、利用したい建物があれば、行政や町内会長に連絡してオーナーさんを確認するのもいい方法です。建物の所有者がわかったら、手紙などで連絡を取っていきましょう。

「空き家っぽい建物」の利活用を決定するのはオーナーさんなので、提案に際しては相手の状況や「どんなことを必要としているのか」という背景をくみ取って、空き家を利用する人もオーナーさんもハッピーになる方法を選んでいく必要があります。

どんなにオーナーさんの思いをくみ取った提案でも、提案内容以外の事情で「今はできない」と言われることもあります。でもこの「オーナーさんの事情」というものは状況や時間と共に変化していくのです。
だから大事なのは誠意を持って手紙など地道なコミュニケーションを続けること。初めて連絡したときは無理でも、1年2年とゆるく交流を続けていくうちに、オーナーさんの状況が変わって「やろうか」と言ってくれることもあります。

ただし利用にまったく前向きでないという場合は他の空き家を探すのが正解だと思いますよ。なぜなら空き家は次々と生まれていますから。

当たり前ですが、地域の方に挨拶をするのもおすすめです。空き家に見知らぬ人が突然来たら、誰でも不審がります。それでも挨拶をして嫌な気分になる人はいませんから。私たちの場合は、利活用したいと考える空き家に地域の人を呼んでバーベキューをして親睦を深めたり、ワークショップを開催して理解を促したりしました。

やぼろじプロジェクトでのイベント
やぼろじプロジェクトでは地域の方が参加できるさまざまなイベントを実施している

コミュニケーションを続ければお互いのことが分かりますし、ワークショップでむすっとしているおじいさんがいれば、「次はこの人を笑わせる方法を考えよう」と、すべきことが見えてきます。ときには怒鳴られたり、場が荒れたりすることもあるかもしれませんが、それは地域の方の本音が見えている証拠。
空き家の再生は長い目で見て取り組むのが大切ですから失敗も停滞も、全ては成功に至るまでの過程と考えて取り組むことが大切です。

――空き家に対して、私たちは今後どのように捉えていくとよいのでしょうか。

空き家自体は現在も増え続けています。それこそ目を向ければ悲惨な現状しか見えないようなものかもしれません。しかし、私はこの「空き家」を暗く語る気持ちは全くありません。むしろこれからの社会を変える契機となるポジティブなものとして考えています。

都市のスポンジ化によって生まれた空き家や空き地は、ゆとりのある新しいコミュニティとなるポテンシャルを秘めていますが、現在はそのことに多くの人、とりわけ空き家を所有しているオーナーさんたちが気づいていないのは事実です。
空き家の利活用を図るのであればそうした人たちに対して、どれだけ的確なアプローチができるか、またお互いにハッピーになれる提案ができるかにかかっています。
私も、オプテージさんには空き家をポジティブにとらえて、まちづくりに参加してもらえればうれしいと考えています。

饗庭さんと、オプテージの霜野、下田平
空き家の利活用に取り組んでいる者同士でたくさんの思いを共有した、饗庭さん(中央)と、オプテージの霜野(右)、下田平(左)

(文/鷲巣謙介 写真/柴田ひろあき)

話を聞いたオプテージ社員のコメント

饗庭さんのお話を伺って、空き家のイメージが一変しました。
私たちも空き家の利活用に挑戦しているのですが、やはり空き家の持ち主など地域の方とのコミュニケーションに難しさを感じることもありました。もっと地域の方々と密にコミュニケーションを取り、もしかしたら一定期間はその地域に身を置いて一緒にまちづくりを考えるような取り組みも必要なのかもしれないと気づきました。
お話を伺ううちに、暮らしや仕事を支える通信インフラの企業である私たちには、空き家利活用の先に、地域に仕事を作ることでまちづくりに貢献できる可能性があるのではないかと感じました。
実際に地域のコミュニティに入り込んで信頼関係を築いていくには、企業として乗り越えなければならない壁も多いのですが、饗庭さんのお話から一歩踏み出す勇気をいただけたような気がします。

  • 饗庭伸首都大学東京 都市環境科学研究科 教授
    1971年兵庫県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。博士(工学)。専門は都市計画とまちづくり。山形県鶴岡市、東京都、岩手県大船渡市などで、実際のまちづくりに携わりながら、人口減少時代の都市計画について研究している。著書に『都市をたたむ』など。
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