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ってなに?

ベルリン発! 欧州流のイノベーションに触れるカンファレンス・TOA'19レポート

リサーチ 関西から考える未来のビジネス

2019.10.14
ベルリン発!
欧州流のイノベーションに触れるカンファレンス・TOA’19 レポート

変化の激しい現代において、未来に必要とされるサービスやプロダクトのヒントを得ようと、多様な業態で日々インプットが求められています。そんな中、各社経営層や新規事業担当者の視線を集めているのがテクノロジー(テック)・カンファレンス。テクノロジー×ビジネスの見本市として歴史を重ねてきたCES、音楽フェスティバルとの共催で日本からの参加者も急増中のSXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)など、ビジネスパーソン向けの国内メディアで目にする機会も増えています。

今回は中でも異彩を放つカンファレンス、2012年からドイツはベルリンで開催されているTech Open Air(テック・オープン・エアー、以下TOA)に注目しました。イノベーションをテーマにスタートしたTOAはテクノロジーを軸に、メディア・教育・金融・アート・科学・ヘルスケアなど領域横断で幅広いトピックが語られ、その多様性にこそ複雑化する社会課題のヒントが見え隠れしていると言われています。

ヨーロッパいちのスタートアップ輩出都市としても知られる先進地・ベルリンで、オプテージ社員が体感したTOAをレポートします。

人もステージも開放的、フェスのムードが漂うカンファレンス

シュプレー川沿い
シュプレー川沿い、開放感にあふれる屋外会場ではビール片手にあちこちで議論の花が咲いている

フォレストステージ
フォレストステージでは、ヨガや瞑想をプレゼンテーションの内容に混ぜたピッチも

メイン会場のFunkhausは東ドイツ時代のラジオ局跡地。ベルリンにはこのような産業遺構を活用した文化施設が多いのも特徴です。シュプレー川沿いに面したFunkhaus周辺のまさにオープンエアーな屋外ステージも魅力的。緑に囲まれたフォレストステージでは、雰囲気にマッチしたソーシャルグッド、マインドフルネスをテーマにしたピッチや、瞑想・ヨガなどのアクティビティも開催されていました。

展示ブース、ピッチ用のステージ、ワークショップスペース
室内会場は展示ブース、ピッチ用のステージ、ワークショップスペースと目的別に展開

電動キックスクーター
注目の電動キックスクーターのスタートアップからは複数社が展示、ピッチ登壇でTOAを賑わせていた

パナソニックデザイン FUTURE LIFE FACTORY
パナソニックデザイン FUTURE LIFE FACTORYのブースには、ターゲットである親子で展示を楽しむ姿が

室内展示も充実しています。ヨーロッパを席巻するマイクロモビリティの旗手・電動キックスクーターのスタートアップや、VRゲームといった体験型の展示のほか、日本からもパナソニックデザイン FUTURE LIFE FACTORYがスマート知育玩具「PA!GO」で出展。子連れで楽しむ参加者も見かけられました。

写真を中心にカンファレンス会場の雰囲気をお伝えしましたが、ここからは各種ピッチの模様をお伝えします。今年度TOAが掲げた以下の5つの柱をベースにしつつ、印象的だった内容を紹介します。

■New Communities
■Pioneering Business
■Deep Tech
■Emotional Innovation
■Zukunftsmusik & Kunst

シェアから「Co」、ビジネスを支えるコミュニティ作りの秘訣と本質

Quarters利用者
ベルリン、ニューヨーク、アムステルダム。Quarters利用者は各国の利用者ともつながれる

コワーキングスペースの多さでも知られるベルリンですが、ワークスペースのシェア・利用者同士の交流からさらに進化し、住居も兼ね備えた中長期滞在型の「Co-Living」が急成長中。まさに新しいスタイルのコミュニティを提案する業界から、2人のファウンダーが登壇しました。

ベルリン、ニューヨークなど14カ国40都市以上で展開する「Quarters」のBjoörn Welterさんは、親子間の関係性が成長や幸せに不可欠なことになぞらえ、個人がコミュニティに帰属することの重要性を強調。子どものように好奇心が盛んな人々は、生き残るために友人であれ雇用主であれ、帰属するためのコミュニティとの接点がその成長に欠かせないとします。

また強固なコミュニティには「ビジョン」が必要という言葉も。信念を駆り立て続けるビジョンがあれば真の共感が生まれ、チーム、顧客との間に本当のつながりができるとしています。コミュニティそのものに明確なビジョンがないと人が集まらず、持続しないという視点は意外と見落としがちかもしれません。

Knotel
サブの拠点としてのコワーキングスペース利用・提供が多い中、Knotelは本拠地としての入居を薦めている

同じくCo-Livingをニューヨークから仕掛ける「Knotel」の創設者兼CEO・Amol Sarvaさんは、従来型のワークスペースを新たなアイデアが生まれる場所に変換させる方法について語ります。彼もまた、オフィススペースを家族、友人といった近しいコミュニティに重ね、「家のように感じられる」「気軽に尋ねる友人の家のような」スペースであるべきとしました。

新たな働き方、暮らし方を提示するからこそ、根っこのコミュニティ・コミュニケーションの在り方はより、信念や心地よさといった内面にフォーカスする傾向が感じられました。

次世代の食、移動とは?価値観から変えていく新たなビジネスモデル

Liliumのエアタクシー
Liliumのエアタクシーは中長距離の移動を想定。実現すればまさに渋滞解消の期待が

タクシーサービスから銀行業務まで、さまざまなビジネスが急速に変化する現在。消費者の要望に応えるための、新たな課題と機会が生み出されています。既存の領域を超えた技術、概念の革新性を感じられるのもテック・カンファレンスの醍醐味。今回のTOAでは日本でもMaaSが話題のモビリティ、食糧不足やフードロスなど社会課題としても取り上げられるフードテックがホットトピックでした。

日本でもにわかにささやかれ始めた空の移動手段・フライングカーが、TOAでは実装段階のテーマとして語られていました。電動ローターによる小型機でのタクシーサービスを計画している「Lilium」のヴァイスプレジデントを務めるArnd Muüllerさんは都市人口が増大する中で、交通渋滞の深刻さを指摘。垂直離陸と着陸が可能なエアタクシーが必要であり、誰もが使える価格帯でのサービスにしようとしています。

VolocopterのAlex Zoselさん
シンガポールでの実証実験の計画を語るVolocopterのAlex Zoselさん

「Volocopter」の共同創設であるAlex Zoselさんはすでにシンガポールにて実践中の実証実験について言及。旅行者に向けた空港からホテルへの空路でのチェックインを計画し、具体的に取り組む課題として空路を管理するデジタルインフラや、乗り降り、充電のためのスペースの整備を挙げ、設計図とともに近い未来の姿として見せてくれました。

クラウドキッチン
日本でも過熱してきた宅配レストラン市場。クラウドキッチンのアイデアも人口密集地である都市部とマッチしそうだ

フードテックからは宅配レストランがキッチンを共有する「クラウドキッチン」というアイデアを現実にした「Keatz」をご紹介。共同創設者のDimitrios Ploutarchosさんは「キッチンは死んだのか?」というタイトルで、刺激的なピッチをしてくれました。

レストランには向かないキッチンを宅配専用のキッチンに。そのキッチンを複数社でシェア。自前の店を持たずに宅配専業でスタートできれば参入障壁が下がり、選択肢が大きく増える可能性があります。「かつては衣服も手作りしなくてはいけなかった時代があるのに、今ではほとんどの人が既製の服を買う」ように、将来は調理が作業ではなく、趣味になるかもしれない未来を提示しました。

すでに競争激化する新市場......フィンテック企業が取り組む次の一手

拡大を続けるN26。
拡大を続けるN26。ヨーロッパ外への進出も着々と準備されている

AIやブロックチェーン、オンラインバンキング、デジタルトランスフォーメーション、遺伝子組み換え......人の暮らしを変える可能性を秘めた技術が次々と生まれています。スタートアップが市場を変えつつある業界といえば、フィンテックが盛んな銀行業界。

ベルリン発のフィンテック企業として注目を集める「N26」からは、共同創立者のMaximilian Tayenthalさんが銀行業の移り変わりについて語っています。現在銀行業では、オフラインからオンライン、そしてモバイルへの移行が加速。一度口座を作った顧客がほとんど店舗には行かないという、根本的なコミュニケーションの変化が起こる中で、競争が非常に加熱しており、顧客の信頼を勝ち取るためのコストが増大しているそう。N26は国際対応、多言語化をすすめ、生き残りを図っています。

Revolutが掲げるチームビルディング
スピード感と同じくらい、失敗を許容する文化が求められるスタートアップにおいて、Revolutが掲げるチームビルディングの考え方は参考になる

一方、イギリスをベースとするフィンテック企業の「Revolut」を率いるAndrius Biceikaさんは、組織内でのマネジメントについて語っています。新たな市場だからこそ、新興企業だからこそ、最も大事なのは会社全員が顧客中心の考えを持つこと。チームこそが成功のためのキーパーソンで、報酬も大事ですが、働くことを楽しんでもらわなければならない。業界全体に変化の兆しが見え始めたとささやかれたかと思えばすでに競争が激化する中で、より本質的なアプローチが重要視されています。

Seth Bannon氏が語る
バイオテックをはじめ人間の思考、健康と深く関わるテクノロジーの分野では、Seth Bannonさんが語るように倫理や哲学に議論が及ぶ

社会課題解決をテクノロジーで行う企業を支援するベンチャーキャピタル「Fifty Years」のSeth Bannonさんも「ミレニアル世代のビジネスのテーマは金銭的な成功よりも、社会の問題を改善することだ」とした上で、従来のようにスピード感だけを重視するのではなく、倫理、安全性の面をしっかり鑑みたスタートアップへの注目、投資について語りました。

SNSの功罪から見る、テクノロジーの民主化が抱える課題

SNSでの個人攻撃は社会問題。
SNSでの個人攻撃は社会問題。Sawsan Chebliさんのように勇気ある発信者を支援する仕組みが求められる

GDPR(※1)の制定により、インターネットを使った個人データのガイドラインを大きく主張したヨーロッパ各国。ドイツはこの動きの中心でもありました。以下、SNSに深く関わる2人のピッチでは、データに続き、デジタル空間における表現やコミュニケーションの在り方への議論が今後深まっていくのではと感じさせる内容でした。

※1 EUが制定した一般データ保護規則。企業による個人情報の扱いを規制し、個人データの保護を目的としている。

ベルリン市長をサポートする立場として行政機関で働いているSawsan Chebliさんは、「デジタル時代の表現の自由と民主主義への戦い」について話しました。もともとパレスチナ難民だったChebliさんは、自分の人生を自分で決めるために社会学を学び、デジタルツールを用いながら右翼ポピュリズムや過激主義などの憎悪との戦いを始めました。FacebookやTwitterで激しい攻撃に遭いながらも「大事なことは、ポジティブなメッセージを広げること」とし、個人が発言力を高め、またソーシャルメディアプラットフォームによる危険な言動へのブロックも活用。利用者と提供者が支え合いながら真に自由な言論を保つべきだと身をもって訴えます。会場へは「私のアカウントをフォローして、応援のメッセージで埋め尽くして」と訴えかけました。

ハッシュタグの創設者
多くの人や思いをつなげたハッシュタグの創設者。それだけに負の感情が拡散されることへの警鐘を鳴らす

Twitterでおなじみの「ハッシュタグ」を発明したChris Messinaさんは「よりよい人間のためのテクノロジー」として、その進化の方向性について語っています。

ハッシュタグはTwitterやFacebook、Instagramなどで少なくとも2億個以上が利用され、毎秒2300個のハッシュタグが生成されています。その一方では誤解が誤解を生み、絶え間ない誹謗中傷、集中砲火に合う可能性があるという負の側面もあるのはご存知の通り。

利用者が本当に求めているのは、接続されていることだけではなく、快適さと安心感。ソーシャルネットワークを構築するデザイナーには、社会的行動を支援する技術を強化し、投稿に対する責任感や内省を促す支援が求められています。Messinaさんはそのためにも、企業のファウンダーを取り巻く文化から変える必要があり、その選択はユーザーの行動にも影響を与えると説いています。

カルチャーにも訪れる新時代テクノロジーの波は、クリエイティビティの保護

DJ文化が根付くベルリン。
DJ文化が根付くベルリン。テック・カンファレンスの会場ながら、自由に機材を使い、楽しめる部屋も

音楽と芸術は私たちに表現する方法やインスピレーションを与えてくれます。カルチャーとの結びつきが深いベルリンで開催されるTOAもまた、カンファレンス終了後に音楽フェスを並行して開催。会場のいたるところで軽快な音楽が鳴り響き、展示にもアートとの結びつきを強く印象付けます。未来のカルチャーに関するトピックも数多く展開されました。

Kobalt Music
音楽の楽しみ方が大きく変化する中で、最新の技術を使った著作権管理でアーティストを支援するKobalt Music

急激に成長しているデジタル音楽出版社の「Kobalt Music」からは、COOのAvid Larizadeh Dugganさんが登壇。Kobalt Musicはミュージシャンの音楽をテクノロジーで管理し、どの場所でどれだけ再生されたのかを正確に把握。その利潤を彼らに還元します。ポール・マッカートニーやテイラー・スウィフト、彼らを従来のレコード会社のように所有物と考えるのではなくパートナーと位置付けます。

現在は一つの曲が複数のプラットフォームで再生され、また複数のソングライターが関わるなど、楽曲再生の処理は極めて複雑化しています。そこにブロックチェーンなどの技術が加わり、ビジネスにおける仲介者を排除する。ブロックチェーンが明らかにするトレーサビリティは著作権の管理にも有効性をうたわれています。テクノロジーがクリエイターのクリエイティビティを保護する流れも、昨今のカルチャーのトレンドと言えるでしょう。

オプテージの江守と下田平
随時情報更新されるアプリと会場のマップを見比べ、聴講するセッションを相談するオプテージの下田平(左)と江守(右)

駆け足でレポートしましたが、いかがでしたでしょうか?テック・カンファレンスでありながら、技術面での訴求は体験型の展示くらい。テクノロジーやビジネスモデル、エコシステムがいかにその先の社会へよいインパクトを与えるか。そのための倫理や思考、生み出し、扱い、恩恵を授かる人間側の在り様から考える。歴史や文化的背景を深く持つ、ヨーロッパのカンファレンスならではのトレンドが存在します。

後編では、日本からTOA公式視察ツアーを企画しているグローバルパートナー、インフォバーンCVOの小林弘人さんをゲストに迎え、オプテージからツアーに参加したメンバーとの鼎談をお送りします。

(文/塚本直樹 写真/峯岸進治)

プロジェクト②「ちょうどいい」働く場

多様化する働き方、変化の先にフィットする働く場の在り方とは?