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カルチャー&オープンネス!ベルリン視察に見た関西イノベーションの未来

リサーチ 関西から考える未来のビジネス

2019.10.15
カルチャー&オープンネス!
ベルリン視察に見た関西イノベーションの未来

ヨーロッパが持つ歴史や文化的背景を色濃く反映したテック・カンファレンス「Tech Open Air(TOA)」。テック・カンファレンスらしからぬ(?)その特徴は、去る7月に開催されたTOA '19のレポートにてお伝えしました。そんなTOAと2016年よりパートナーシップを組み、現地ツアーの開催、日本版の開催とイベントの普及に努めてきたのが、株式会社インフォバーンCVOの小林弘人さんです。小林さんが企画した2019年のTOA公式視察ツアーに参加したオプテージの下田平卓也と江守隆を含めた3人が、ツアーを振り返りながら、ここ日本、関西に持ち帰った気付きについて意見を交わしました。

(聞き手/オプテージ 下田平卓也、江守隆)

ベルリンにイノベーターが生まれ、注目される理由とは

小林氏
紙とウェブの両分野で多くの媒体を創刊し、イノベーション関連の著書や登壇も多い小林さん

――ベルリンは今、欧州で最もスタートアップを生んでいるまちと言われています。小林さんがベルリンに注目し始めたきっかけは何だったのでしょうか。

小林:1980年代から、映画や音楽をはじめカルチャー発信地として常に気になる都市ではありましたが、一番大きかったのは、2016年のアジアパシフィックウィーク(※1)にゲストスピーカーとして登壇したこと。「ダイバーシティ(多様性)におけるリーダーシップ」を扱うセッションに参加した際に、ベルリン独自の社会システムに目を向ける機会が訪れました。

そのとき、参加者の一人であるシリア移民の方が言った「こんなスーパーリベラルなまちはない。俺を受け入れてくれてありがとう」というセリフは今でも忘れません。もともとベルリンはトルコやシリアからの移民を積極的に受け入れたり、アーティストビザやフリーランスビザが取りやすいなど、移住者に寛容なまちです。私のドイツ人の親友とも呼ぶべき年配者は東ベルリンで出版社を経営していました。東西統合後、とりわけリベラルな人が集まり、多様性を体現しているのがベルリンだと感じました。

※1 ベルリン市が毎年開催している、世界中から招集したベンチャー企業が発表や展示を行うイベント

江守:移民政策は、ヨーロッパでもやはりドイツが抜きん出ているのですね。

小林:そうですね、ご存知のようにドイツにはもともとナチス統治時代の反省から人道的な側面がありますよね。また、国内労働者の減少も問題となっていて、EUの他国が厳しい移民受入規制を行っているのに逆行しています。これが問題となって、メルケル首相の政策批判にもつながっています。また、東西に分割されていたベルリンでは、ベルリンの壁の崩壊で、共産主義だった東と資本主義の西が融和してきた歴史があります。それはかなり異色な経験だったと思いますし、長い時間をかけて相手が異質であっても、まず 「受け入れる」土壌が培われたのではないかと思います。また、ダイバーシティが進んでいるまちでもあり、以前には市長が自らゲイであることを公言しました。LGBTのパレードもすごい盛り上がりを見せています。ベルリンに多様な人が集まり、自由な空気を醸し出し、それがまた新たな自由人たちを呼び寄せている理由です。

――下田平さんと江守さんは今回初めてTOAに参加されてみて、ズバリ率直にどう感じられましたか?

ツアーの裏話
1週間のツアーを振り返る小林さん(左)とオプテージの江守(中央)、下田平(右)の3人。ツアーの裏話でも盛り上がる

江守:TOAは「イノベーターと、その技術に込められた想いを意見交換する場」だというのが、これまで行ったどんな展示会とも違いました。その後の視察ツアーも含め刺激は大きく、帰国後は余暇を使ってSNSで意識的に情報発信してみたり、英語の勉強をしたりと、自分の行動を変えるきっかけになりました。

下田平:TOAでは、コミュニケーションの大切さを痛感しました。やはりイノベーションの根底には課題があって、それを議論することで仲間を増やし、実行に移していく、という工程は、この先AIやロボット化がどんなに進んでも変わらないことだと思いましたね。

小林:私は、TOAツアーでは毎朝、その日の見どころをお伝えするとともに「とにかく隣の人とビールを飲みながらしゃべってください」とお伝えしていましたね。よくある展示会が、商談成立と名刺集めをゴールにしたものなら、TOAは会話から成立する「ニューカンファレンス」。イノベーションを起こす仲間を探したり、アイデアをぶつけ合ったり、自分の分野を外側から見直すための実験場。だから、自ら積極的に動かないと何も起こりません。それがとりわけ、コミュニティの温度感を大事にしながら運営されているTOAの素敵なところです。もっとビジネスライクなカンファレンスはベルリンでも多くありますが、TOAだとみんな誰かのアイデアに対して、「それは儲かるのか?」と最初に聞かない。社会にとって意義があれば、お金はなんとかなるのではないか?といった寛容さを醸していますね。利己的な話ばかりしたら、おそらく愛想を尽かされるのではないでしょうか。

下田平:小林さんはTOAの日本での開催にも取り組まれていますが、そこまでTOAに惚れ込むようになった経緯を聞きたいです。

小林:偶然にも、先ほど述べたアジアパシフィックウィークの期間に、TOAからのプレゼンを受けたのです。そのときはプレゼンテーターも慣れていないせいか、アピールポイントがぼんやりしていました。なので、そこまで引かれなかったのですが、なぜか記憶には残っていました。帰国して、しばらくしてから「これからはTOAの時代かも!」と急に天啓が降ってきました(笑)。

もともと私は黎明期からのシリコンバレーを見てきましたが、今では中国やインドを筆頭にアジアでも最新技術は普及しているし、日本以上に優れたイノベーターも多い。今やテクノロジーの浸透は世界をフラットに変えたし、私がWIRED JAPANを立ち上げた頃と違って、世界のどこでもトレンドはキャッチアップできる。いまだにシリコンバレーだけを気にしている日本のマジョリティって、イノベーション界の田舎者かも?と感じていたタイミングでした。

また、シリコンバレーが盛り上がった背景にはヒッピーカルチャーがありますが、ベルリンにも、メインストリームに対してアンチテーゼを唱えるようなノリが色濃い。ネットがなかった時代から当時のいわばハッカーが集うKAOSコンピュータークラブなどもあったし、現在はブロックチェーンの首都とも言われています。それらがなんとなく自分の中でつながっていったのです。

ベルリンのスタートアップが見せる、過剰なまでのオープンネスと社会性

オプテージ下田平
どこまでもオープンな人々の姿勢に衝撃を受けたと言う下田平(右)

――今回のツアー全体を通して、印象的だったことを教えてください。

下田平:どこへ行っても、こちらが拍子抜けするほどみなさんオープンマインド。ツアーで回ったGHOST(写真1)では、日本なら社外秘とされていそうな技術のことも包み隠さず話してくれましたし、ほかのどの施設でも、本音の部分で話してくれているのがものすごく伝わってきました。こういうプレゼンテーションなら気持ちを動かされる支援者も多そうだなと感じました。

スタートアップ・GHOST
写真1 ハプティックをベースに人間の感覚の拡張を試みるスタートアップ・GHOST。ファウンダーは3人の女性

インキュベーション施設・The Drivery
写真2 モビリティをテーマにしたインキュベーション施設・The Drivery。広大な敷地にスタートアップから大企業までがそろう。
映画でおなじみのあの車を、電気自動車でよみがえらせるプロジェクトが

小林:The Drivery(写真2)については、現地で事前にツアーの調整をしていたときに知人にすすめられて、ノンアポで突然行ってみたんです。そうしたら担当が中へ手招きしてくれて、結局、小1時間ほどミニツアーをやってくれました。私が誰なのか名乗る暇もなく「ところであなた誰?」と最後に聞かれて(笑)。過激なまでのオープンネスは、このまちの一つの共通項だなと思いましたね。住んでいながら、そう感じていない人も中にはいますが、私はたまたまそういうラジカルなまでにオープンな人たちに囲まれているせいかもしれない。昔のサンフランシスコにもそういうノリはありましたが、その比ではないと経験から感じています。

オプテージ江守
江守は、参加者と空間の掛け合わせから生まれるネットワークに着目

江守:「社会やまちをよくしたい」と人々が感じているところで、その思いをうまくつなげる空間としてDas Baumhaus(写真3)といった施設やHoltzmarkt(写真4)のような市民主導型の地域自治がうまく機能していく、そのネットワークの広がり方がベルリンらしく感じました。Das Baumhausで驚いたのが、施設を運営するスコットさんに突然合唱を促され、誰からの合図もなくみんなが波長を合わせてフェイドアウトしたこと。この体験が表しているように、まずは施設側が参加者をつなげる仕掛けがありますが、あとは同じ想いをもった当人同士が自発的にやりたいことをやり、つながりが自然と広がっていく。日本にもコワーキングスペースは増えましたが、こういった場所は見たことがないです。

Das Baumhausの壁面
写真3 Das Baumhausの壁面には、市民がそれぞれ持ち寄った「リソース」と
「ニーズ」が可視化され、マッチングできる仕掛けが

Holtzmarkt
写真4 大企業による都市計画を市民がはねのけ、自主的なまちづくりが行われたHoltzmarktは世界各地から、
都市計画に携わる視察団が訪れる

小林:イノベーションの根底になっているその想いというのは、社会課題解決がほとんどでしたね。実際ここまで成熟した現代社会では、解決すべき課題というのは、よりよい生き方や子どもへの教育、コミュニティのあり方などの社会課題に帰すると思います。この物資やサービスが足りない、というのではなく、存在そのものや質を問うわけです。いまだに「物を多く売りたい」という意識で動いているビジネスは、もはや時代遅れに感じます。

下田平:Atlantic Food Labs(写真5)の話で感じたのは、スタートアップ側はもちろん、支援者側も彼らなりの課題を感じているということ。利益だけが目的なのではなく、支援する側もされる側も、同じ社会課題に向かって思いを共有することで、その熱量が高まっていくようでした。

Atlantic Food labs
写真5 フードテックに特化した投資を行うAtlantic Food Labs。母体は音楽をはじめ多様なジャンルで仕掛けるベンチャーキャピタル・Atlantic Labs

小林:次世代のイノベーターとしては、あらゆるテクノロジーが「これからの社会をどうするのか」という視座から考えなくてはならないことを学んでほしいと思います。ただのカイゼンがしたいのなら、それはそれで構いませんが、イノベーションというのなら、思想を問われます。

――ベルリンには、駆け出し段階のスタートアップをしっかり支援する姿勢が感じられました。

江守:マッシュルームで人工肉を作るMush Labなどは、開発がかなり進んでいたのでイメージしやすかったのですが、一方でプロトタイプができるのも数年後、という投資先もありましたよね。あの段階でも投資を受けられるのは衝撃でした。

小林:よい意味でも悪い意味でも、ベルリンでスタートアップを始めるのは、バンド感覚の人が少なくないと思います。もちろん、中には基礎研究から、その成果を発揮したいと考えている人もいます。ベルリンのコワーキングスペースは100カ所ほど、立ち上げを支援するアクセラレーションプログラムも60以上あるので、まち自体が起業のエコシステムを備えているといえます。また、ベルリンは物価が安いので駆け出し段階での生存率が上がる、という理由も創業期の起業家にとって安心感はあると思います。そんなふうにスタートアップの卵が多い一方で、世界を狙えるのはほんの一握り、消滅するところも多いというのが課題です。

オンラインプライバシー
今回のTOAで小林さんが注目したのは「オンラインプライバシー」

――カンファレンスを含め、テーマとしてはどんなものに引かれましたか?

下田平:私はモビリティです。フライングカーなどは技術そのものにも圧倒されましたが、どのスタートアップも、モビリティをコミュニティにどう反映していくか?という視点で、ふたつを一緒に考えているのが印象的でした。

小林:モビリティは単体ではなく、スマートシティの範疇で考えられるようになってきています。前提として「都市部ではもう誰も車を所有しない」という仮説を立てて、イノベーションが進められているのが特徴です。

江守:Reach nowによる「Kills Traffic Jam」というお題のセッションでも、スマートシティがさほど遠くない未来なのだと感じました。AIを使ってリアルタイムで会員データをとることで、全ての移動を一元管理し、最適な移動手段を提供する。タクシーからライドシェア、飛行機、フライングカーまで、あらゆる移動手段を一括で検索できるなんて、移動のストレスが激減しそうです。

小林:個人的には、オンラインプライバシーが気になりました。EUではすでにGDPR(一般データ保護規則)が始まっていて、個人データを人権の一部として捉えています。参加したセッションでは、いかに自分が個人情報をばら撒きながらネットしているのかを可視化できるサービスを教えてもらったのですが、たとえばフライト情報などは予約した時点で、すでに政府と企業間でそのような情報が共有されていることを改めて知りました。面白かった反面怖かったです。また、個人の行動データはこれまで、企業の営利活動に利用されやすいものでした。GDPRでは、データの使い方や理由を開示しなさい、と企業側に細かく規定し、違反者には厳しい罰則が設けられています。今後のeプライバシー規則が法案化されたら、GDPRとセットでさらに厳格化します。「個人データとは何か」というテーマは、もっと日本でも議論すべきであり、企業活動も変化せざるをえません。今後は一人ひとりが考えるべきテーマだと思いました。

ベルリンと日本、関西。違いから得られたヒント

自由なアイデア
自由なアイデアが次々に登場し、対談時間をオーバーするまでに

――今回のツアーを振り返って、関西で取り入れられそうなアイデアがあればお聞かせください。

下田平:中小企業の事業を活性化するプロジェクトを担当しているのですが、ここにものづくりのインキュベーション施設を作ったらどうかな、と思いました。古くから大阪の経済を支えてきたものづくりの地域ですが、下請け文化が強く、最近では安価な海外製品などに押されています。企業が共同で取り組む必要性を感じているのですが、閉鎖的で足並みをそろえるような古い体質が残っていて、どんなによいアイデアも実践されずに止まってしまう。この風潮をいきなり変えるのは難しいから、誰もが気軽に顔を出せて、話ができるような施設を作るところから始めてみるのはどうでしょう。

小林:これは関西に限った話ではありませんが、日本がこれから意識すべきは、ダイバーシティとインクルージョン(包括)です。性別や国籍、さまざまな障害をもつ人たちも含め、自分と異質な人とどう向き合うかを模索しなくちゃいけない。外国人の茶人や寿司職人がいるようなグローバルな時代で、異質性を排除していくとチャンスを失い、経済的にも非効率だと国ももっと考える必要があります。オープンマインドに会話し、仲間を取り込んで「自分たちの作るものが世の中を変えられる」と信じられる社会にしないと、同質性が武器だった時代はとっくの昔に終わっていると思いますよ。だから、イノベートしなくてはならないのは、何よりまず自分たちの姿勢だと思っています。

江守:既存の技術力や特色を生かしつつ、今日の話にも出たカルチャーの要素をうまくミックスさせるのはどうでしょう。また違った方向からの盛り上がりが得られそうです。

下田平:確かに。最近のスパイスカレーブームのように、関西って新しい食に対する寛容さがあるので、フードと掛け合わせる展開も面白そうですね。

小林:大阪といえば、忘れてならないのが「笑い」の要素。自分の失敗を創業者たちが赤裸々に話すイベントが世界中で開催されていますが、失敗をお笑いとして語るのに関西弁は適している気がします(笑)。失敗を共有するとつながりが深まるし、実際学びもすごく多いと思います。
さらに、再生した地方の事例を見ていくと、コミュニティ外の人がチェンジメーカーになるケースが多いです。他所からの視点を生かした取り組みで、中の人々のマインドが変わっていく、そんな展開を期待しています。

(文/池尾優 写真/白井孝明、峯岸進治、小林弘人)

編集後記

ベルリン視察では多くの素晴らしいイノベーションに触れましたが、技術そのものよりも、その背景になっているカルチャーや社会課題にこそ目を向けるべきなのだと視座が広がりました。どんなイノベーションも「社会課題ありき」の時代、という小林さんの言葉にあったように、社会課題を掘り下げることで、地域創生への具体的な取り組みができればと思いました。また、「テクノロジーの側にはいつもサブカルチャーがある」という小林さんの見解にハッとしました。視察を経て、自分の中にベルリンの根底にぼんやりしたイメージがあったのですが、それがサブカルチャーだったのかと腑に落ちました。今日の話でも、関西の食や笑いの要素との掛け合わせ案が多数出ましたが、サブカルチャーはベルリンのよいところを関西で生かす上でのキーワードになりそうです。

  • 小林弘人株式会社インフォバーン 代表取締役CVO
    紙とウェブの両分野で多くの媒体を立ち上げ、1998年より企業のデジタル・コミュニケーションを支援する会社インフォバーンを起業。コンテンツ・マーケティング、オウンドメディアの先駆として知られる。日本におけるオープン・イノベーションの啓蒙を行い、2016年よりベルリン最大のテック・カンファレンスTOAの日本公式パートナーとなる。イスラエル・ブロックチェーン協会のアドバイザリーボードを務め、日本企業や自治体向けにブロックチェーンを活用した新規ビジネス創出のアイディエーションを手がける。主な著書に『新世紀メディア論』『メディア化する企業はなぜ強いのか?』ほか。主な監修・解説書に『フリー』『シェア』『パブリック』ほか多数。

プロジェクト②「ちょうどいい」働く場

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