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地方企業がデータドリブンで事業改革!そのノウハウは全国、そして世界へ

リサーチ 関西から考える未来のビジネス

2019.10.23
地方企業がデータドリブンで事業改革!
そのノウハウは全国、そして世界へ

GPSと赤外線センサーでバスの運行状況を見える化したイーグルバス。生産ラインにIoTを導入して稼働状況を見える化した旭鉄工。業種業態は違っていても、そこから劇的に業績を向上させ、新たな会社まで作ってしまったことは共通しています。

ITの専門家ではない2社の経営者が、なぜITを駆使したデジタルシフトに踏み切ったのか。埼玉と愛知という地方で事業改革に成功した両社に、データを活用してビジネスの成功に結びつけるポイント、両社の考える今後の展開などを伺いました。

(聞き手/オプテージ 霜野佑介、辻善太郎)

赤字脱却のために路線バスの運行状況を見える化へ

オプテージ:イーグルバスさんはGPSを使ってバスの運行状況を見える化したことで有名ですが、取り組もうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

谷島:埼玉県川越市に本社を置く当社は、送迎バスから始まって2000年に観光バス、2005年には高速バスに参入しました。羽田と川越の間を結ぶ高速バスであればチャンスがあると考えたのです。高速バスのビジネスは絶好調で、狙い通り利益を上げることができました。

そんな時に隣の日高市の路線バスから大手バスが撤退することになって、地元から引き継いでほしいという話が来たんです。2006年のことです。赤字で撤退するのですから厳しいのは分かっていましたが、高速バスの成功でいい気になっていたんですね(笑)。自分なら何とかできると思っていました。

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「GPSの可能性は前から気付いていて、2000年から埼玉大学と産学協同で研究をしていました」と、イーグルバス代表の谷島賢さん

オプテージ:赤字は改善できたのでしょうか。

谷島:とんでもありません。路線バスで大変な赤字を出したために、会社自体も赤字に陥ってしまいました。問題だったのはどこを改善すればよいのか分からないこと。まずはデータを収集して見える化する必要に迫られました。

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路線バスは一度路線を決めるとずっとそのままで、ニーズの変化や消失によるサービス変更があまり考えられていないという

私が着目したのはGPSを使って運行状況を見える化することでした。そのためには、位置情報や時刻と同時に乗客のデータも必要ですが、当時は利用できるシステムがありませんでした。そこで自分たちでセンサーを開発して赤外線で乗降客数をカウントするシステムを作りました。しかし、道路のノイズやお客さまの荷物など余計なものまで拾ってしまうために、精度が出なかったんです。

オプテージ:そこであきらめてしまわなかったのでしょうか。

谷島:たまたまITに強いアメリカ人の友人に相談したところ、「世界中を探せば必ず使えるものが見つかるはずだ」と背中を押してくれました。そこでセンサーを探し回って、結局ドイツ製のセンサーとイスラエル製の車載コンピューターを採用してシステムを再構築しました。それが2009年のことです。でもそれはデータが取れるようになっただけ。そこから試行錯誤しながら改善に取り組みました。

昭和の時代の製造設備のままIoTで生産性を向上させる

オプテージ:旭鉄工さんではIoTを駆使して工場の生産ラインの状況を見える化することで、大きく業績を向上させ、現在ではその仕組みを提供する会社まで立ち上げています。そのきっかけは何だったのでしょうか。

木村:愛知県碧南市にある当社がIoTを活用して見える化した狙いはたった一つ。生産能力の向上です。例えば、1時間に100個だったものを200個作れるようにすること。それができれば設備投資をすることなく、倍の数の製品を作れるようになりますから、当然儲かります。

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「IoTありきではなく、儲かるからIoTを活用しているんです」と、旭鉄工代表の木村哲也さん

きっかけは取引先のトヨタ自動車から増産の依頼が来て、現状の設備で生産量を増やすためにトヨタ自動車の方から指導を受けることになったことです。無駄を削減するために、計画数や実績数、ラインの停止時間などを記録するようにアドバイスを受けたのですが、そもそも記録すること自体が大変でした。

数多くの生産ラインが同時に自動で動いていて、手作業では正確な数字を記録するのが難しい。そもそも社員にはもっと付加価値の高い仕事をしてもらいたいと考えていました。そこで人間の代わりに機械でカウントできないかと考えたわけです。

大事なポイントは、IoTを活用するために、生産ラインを入れ替えたりはしていないことです。それでは儲かりません。昭和の時代から使っている古い設備にも設置できる汎用性の高いIoTシステムを独自で開発しました。

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秋葉原で部品や部材を調達し、独自のソフトウェアを開発したことで、昭和の設備にも使えるIoTになった

今のやり方にたどり着くまでには、いろいろと試行錯誤してきました。例えば、機械の稼働状況を知らせるシグナルタワーに光センサーを貼り付けて測定していますが、当初は回路に割り込みをかけて測定しようとして間違って回路をこがしてしまう、といった失敗も経験しました。

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デジタルで現状把握の時間を短縮し、リアルタイムかつ正確なデータを取ることで、改善活動をすぐに始められるという強みがある

データから成果を引き出すには人間の経験と努力が必要に

オプテージ:お二人とも止むに止まれぬ事情があって見える化に取り組み、そこでITを活用されています。まさに今注目されている「デジタルシフト」を実践されてきたわけですが、成功させるポイントはどこなのでしょうか。

木村:トヨタ生産方式では「時間は動作の影」と言います。時間を測っておけば停止が発生していること、サイクルタイム(製品を1つ作るのにかかる時間)に遅れが多ければやりにくい作業があったりすることが分かる。ただ、問題を見つけてからどう改善していくのかが重要で、それは人間にしかできないことです。

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製造現場から送られてくる生産ラインの稼働データはクラウド上にアップされ、いつでもどこでもさまざまなデバイスで確認できる

製造現場で生産性を上げる時のポイントは、例えば、距離を短くし、速度を速め、待ち時間をなくすことです。それを頭に入れた上で、データを見てやり方を変えてまたデータで確認する、といった作業を積み重ねました。結果、100ライン平均で43%の改善効果が出て、労務費が年間2億円節減、さらに高い目標にトライする風土ができたことで納品物の不良も75%減らせました。

私はデータから改善されたポイントを見つけたら、現場に「どうやって改善したの?」と聞きに行っていました。これを繰り返していると、社員も改善効果を早く私に報告しようと待ち構えていますし、新しいことにも意欲的に取り組んでくれるようになりました。社員のマインドも前向きになって、風土改革につながったことも大きな収穫です。

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改善データを示すボードに木村さんのスタンプやコメントを加えることで、木村さんがしっかり見ていることを伝えると、社員の意識は変わっていく

谷島:私たちもまったく同じです。GPSと赤外線センサーによって乗降者のデータは取れるようになりましたが、それを活用して、最適化していくのが私たち人間の仕事なんです。

路線バスはお客さまを乗せている実車率を増やすと収益が改善するので、私たちは11kmのコストを単位にして、収益率を見ています。運行内容がお客さまのニーズに合っていなければ、それに合わせるように最適化していきます。

今、主流になっているのは、データと人間を組み合わせることです。もともと運転手の暗黙知に頼らない改善を目指してきたわけですが、やはり人間の経験値を入れた方が精度が上がると分かってきました。

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バスの運行状況を見える化したことで、電車との乗り継ぎ時間に遅れて乗客の利便性が損なわれるといった改善点が明確になった

オプテージ:実際にデータを活用していく上で、障害となるものは何だと思われますか。

谷島:データを日常的に見る習慣がないことです。データを収集するようになっても、それを見る習慣がないとデータは使えません1年に1回のダイヤ改正に向けてデータを貯めていくという長期のPDCAだけでなく、短期のPDCAも回していかないと大きな歯車が効果的に回っていかないんです。

私たちは今、毎週月曜日の朝に1週間分のデータを分析するのをルーティンにしています。毎週見ることで、ある停留所の乗客数がしばらく低迷しているといった「あれ、おかしいな」という気付きがみんなの間に生まれていきます。それを深掘りしていくことで、改善すべき点がはっきりしてくるんです。

木村:当社のシステムを導入していただいているお客さまで効果が上がらない場合も、データを見ていないことが多いですね。大事なことは目標を決めて、データを見て、共有して、改善策を実行することです。私たちのところは毎日データをもとにミーティングをしています。なぜ生産ラインが止まったのか、どう改善していくのか、いつまでに誰がやるのかを決めて、改善のサイクルを回しています。現場でデータを見ることに意味があると考えています。

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両社とも現場で磨いたデジタルシフトのノウハウを他社に提供する別会社を設立し、業界全体を変えようとしている

現場とIT、ソフトとハードの両方を知るSIerが求められる

オプテージ:お二人の場合は知り合いにITに詳しい方がいて、それがデジタルシフトへつながっていったと感じています。私たち自身ももっとお客さまのところに踏み込んで、一緒にプロトタイプを作って、それを販売していくことにも挑戦できないかと考えています。デジタルシフトを進める上で、私たちのようなシステムインテグレーターのような企業にはどんなことを期待されますか。

谷島デジタルシフトで求められるシステムはコストではなく、利益を生むためのものです。そこではブレークスルーが求められます。ただ、ブレークスルーには変態的な、人とはちょっと違ったこだわりが必要です。教科書的なシステム屋さんではブレークスルーを起こしにくいのではないでしょうか。会社という法人よりは、その中にいるSEさんの個人的な発想に期待しています。

また新しいシステムを作るには、ITと現場の両方に精通することが必要です。私自身も埼玉大学でデジタル活用を学び直しました。改めて最先端を学ぶことで、データを見る目が養えたと同時に、ITを活用する上での仲間を作って、社員として迎え入れることができています。そういう開かれた活動がパートナー作りにつながると思います。

木村:私はお客さまの懐に飛び込んで、本当に求めているものは何かをつかむことですね。高品質なものでなくても構わないと思えば、それこそ秋葉原にセンサーを買い付けに行ってもよいわけです。そういう自由な発想ができる人がいいですね。

あとはITしか知らない人が多いのが現状だと思いますが、やはり今はハードとソフトの両方を知っている人が必要です。以前も中途採用のために、20代と50代の人を面接したのですが、50代の人はソニー出身で電子工作もできるというのは強みだと感じ採用しましたね。

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オプテージ自身も変革が求められる中、先駆者のお二人に次々と質問を投げかけていた、オプテージの霜野

オプテージ:受託開発がメインの当社にとっては、カスタマイズして使うことが当然ですが、IoTシステムを提供している旭鉄工さんのグループ会社では、カスタマイズなども受けているのでしょうか。

木村:設備を選ばずに簡単に導入できて、ライン当たり300円からという低価格が特徴ですから、カスタマイズは基本的にしません。宅急便で送ったシステムを生産ラインに取り付けてもらえれば、すぐに利用できます。

SaaSとして提供していて、収集したデータはスマホで見られるようになっています。閾値を設定しておけば、必要な人に自動でアラームを飛ばすこともできますし、AIスピーカーの音声認識を使って、声でほしいデータを引き出したり作業者に指示したりすることもできます。

現在200社で導入していただいた実績があり、そのうちの80%が中小企業です。5カ月使っていただいた約200ラインでは平均25%向上の改善効果が出ています。成果をうたうシステムの多くは一部の成功したユーザーの数字だけを取り上げていますが、私たちは全ユーザーの平均値です。コンサルティングも手掛けていますが、3カ月で終了し、後は自主活動で成果を上げていただいています。

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たとえ受託案件がなくても、現場との接点を増やすことが、今後役立つサービスにつながると感じた、オプテージの辻

データに基づく企業評価はビジネスの姿も変えていく

オプテージ:今後についてはどんな展開を考えていますか。

谷島:そもそもの人口が減少するので、路線バスの改善効果には限界があります。そこで重要になるのが、新しいお客さまを増やすこと。朝夕の通勤通学の時間帯とのギャップを埋めるには昼間に観光客を増やすのが効果的なんです。

我々が導入した、まちの真ん中にバス路線を結束するハブ「ハブ&スポーク」は、車両を増やすことなくお客さまの利便性を上げる仕組みの一つですが、これからはここにさまざまな施設を入れて人が集まる拠点にしていきます。

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イーグルバスは「ハブ&スポーク」をきっかけに、地域の公共事業にかかわる企業としてまちづくりにも参画していく

また、これまでやってきたことを海外にも輸出します。今はラオスの路線バス事業を手掛けています。ラオスは燃料費が高く事業コストの40%を占めています。バスを電気自動車に変えることで、大きく改善できるはずですし、将来の日本での電気バスの展開にも役立つはずです。

木村:私はIoTで収集したデータは金融ビジネスに使えると考えています。「プロダクションレンディング」という名称で商標登録したのですが、生産力を融資の担保に使うという考え方です。製造業の本来の価値は生産能力です。ところが今まではリアルなデータの裏付けがありませんでした。

しかし、IoTシステムを使えば、生産力や稼働率、生産余剰能力、改善余地などが簡単に分かります。そのデータを精査すれば融資のための判断材料になります。地方銀行が担保に頼らない地域密着型の融資を展開することが可能になり、事業継承もしやすくなるはずです。

そう考えると、IoTの活用は製造現場の改善にとどまらず、他の業界の仕事のやり方まで変えていく可能性があります。センサーを付けてデータをとって実態を把握することは、企業経営の判断にも大きな影響を与えますし、取引のあり方も変えていくと思います。

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互いの立場を超えた意見交換がこれからのWin-Winの関係作りにつながっていく

(文/高橋秀典 写真/川本聖哉)

編集後記

旭鉄工さんのIoTシステムはシンプルで分かりやすく、現場でもすぐに使えそうに思われました。それでも使い方を教えるサービスを用意していたので、そこまでしなくては現場で使ってもらえるようにはならないというのが現実だと感じました。
デジタルシフトが注目されている今、SIerだけでIT化を進めていくのには限界があります。そこでは現場の人と一緒にシステムを作っていくことが求められています。今回の対談でも、現場の人が困っていることをいかに拾っていけるかが、SIerに問われていると感じました。

イーグルバスさんのお話では、数字だけを追いかけた効率化ではなく、その先にある「利用者がどのような目的で使うのか」ということを常に意識されているところが、インフラ事業者として見習わなければいけない点であると感じました。
ハブ&スポークはネットワーク化による地域振興です。その構想は、単なる慈善事業ではなく、ビジネスとしての利益を確保した上で社会課題の解決に取り組むというもの。社会の課題が自社の発展の障壁であり、それを解決することが継続的な発展につながっていくという信念が伝わってきました。

企業のデジタルシフト戦略に求められる人材像として、教科書的なSIer・システム屋ではなく、正攻法では難しい課題をブレークスルーする力を持つ人間が必要になると言われていたことが印象的でした。事業を俯瞰して自ら解決策を講じることができるスーパーマンのようなSEをアサインするのは現実的には難しいため、ソフト・ハード技術を押さえながらも、課題解決に有効なぶっ飛んだ発想ができる少数精鋭の支援ユニットをITサプライヤーがいかに組むかが、これからのソリューション事業の在り方として重要になると感じました。

  • 谷島賢イーグルバス株式会社 代表取締役
    東急観光を経て、1981年に父親の経営するイーグルバスに入社。2000年に社長就任。データを活用したバス事業のコンサルティングを行う株式会社イデア総合研究所の代表取締役社長でもある。英ウェールズ大学でMBA、埼玉大学で理工学博士を取得。
  • 木村哲也旭鉄工株式会社 代表取締役社長
    トヨタ自動車を経て、2013年にトヨタ自動車の一次仕入先である旭鉄工の3代目社長に就任。2016年にIoTを使ったモニタリングやコンサルティングを提供するi Smart Technologies株式会社を設立した。著書に『Small Factory 4.0 第四次「町工場」革命を目指せ!』。

プロジェクト②「ちょうどいい」働く場

多様化する働き方、変化の先にフィットする働く場の在り方とは?