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家業で起業する⁉関西から生まれた「アトツギベンチャー」ムーブメント

リサーチ 関西から考える未来のビジネス

家業で起業する⁉
関西から生まれた「アトツギベンチャー」ムーブメント

親から引き継いだ家業で、若手経営者が新たな事業創造にチャレンジしていく「ベンチャー型事業承継」、通称「アトツギベンチャー」。中小企業の後継者不足や、スタートアップの成長不足などに悩む日本で、新しい事業創造の形として注目され始めています。実はこのモデル、関西発祥です。関西の中小企業をロールモデルとし、全国へ広がりつつあるのです。

そこで今回は、アントレプレナーシップの専門家である神戸大学大学院教授の忽那憲治さんと、ベンチャー型事業承継を提唱した山野千枝さんに、アトツギベンチャーが秘める産業界へのインパクトを伺いました。

(聞き手/オプテージ 霜野佑介、辻善太郎)

収益性の低い中小企業はビジネスモデルの再編成を

オプテージ:お二人は中小企業経営者を研究・サポートしていることで共通していますが、そもそも中小企業の事業承継に携わるようになったきっかけは何だったのでしょうか。

忽那:従業員20人以下の中小企業が雇用の7割を生み出していて、設立から7年以内の若い企業が雇用の8割を生み出している」という、アメリカの有名な経済学者の報告書があります。学生時代にこのレポートを読んだとき、それまでは大企業が経済を回しているとばかり思っていたので、衝撃を受けました。そこから中小企業の研究を始め、以来30年間専門としています。

忽那憲治さん
アントレプレナーファイナンスの第一人者でもあり、多くの起業家や中小企業経営者を研究し育ててきた忽那憲治さん

山野:私は中小企業やベンチャー企業の支援拠点である大阪産業創造館の創業メンバーとして参画したのが始まりです。そこで中小企業情報を発信する広報誌『Bplatz』に立ち上げから参加し編集長も務めました。以来、19年間この分野に携わっています。

山野千枝さん
「ベンチャー型事業承継」の伝道師として活動の幅を広げる山野千枝さん

オプテージ:『Bplatz』はよく読んでいますが、とても面白いですよね。あの雑誌だけで、中小企業に対するイメージがガラリと変わります。スポットライトの当たっていないビジネスを掘り起こし活性化するという意味では、メディアの力は大きいと実感しました。
そうしたご経験を持つお二人の目から見て、今関西の中小企業ではどのようなことが起きていると感じますか。

忽那:関西の中小企業にとって、ここ5年の変化は大きいです。というのも、梅田のグランフロントにできたナレッジキャピタル(※1)を皮切りに、スタートアップやファミリービジネスなどの中小企業が集まる場がいくつもできているのです。

※1 知的交流を通じたイノベーション創出をワンストップで実現する場として、2013年4月に誕生したイノベーションハブ施設。シェアオフィスや会員制交流サロン、イベントホールなどを併設。大学や研究機関・企業などの参画者数は5年間で300者以上、これまで5000件以上のイベントが開催されている。

山野:近年は、銀行も自治体も中小企業やスタートアップ支援に乗り出していて、情報を得たり人とつながれたりする機会は以前に比べてとても多いです。そういう意味では、意欲さえあればどんどん前進していけますが、その逆も......。意欲次第で明暗が分かれる時代です。

オプテージ:明暗の「暗」の部分とはどのようなところでしょうか。

忽那:日本の企業が抱える課題に「収益性の低さ」が挙げられます。先進国の中小企業の営業利益率が15%ほどなのに対して、日本の中小企業は実質1〜2%。国力ランキングが低下している要因でもある深刻な問題です。
資本コストをカバーできるだけの利益率を目標にするのが先進国の常識ですが、日本ではまだ浸透していない。そして残念ながら、関西の中小企業は東京に比べて、そういったファイナンスへの認識が低いと感じます。

総資本営業利益率の推移
どの企業規模でも営業利益率は昔と比べて低く、特に零細企業の低下が激しい

また、日本は先進国で最も人口が減っていく国。人口減少で需要が大きく落ち込んでいくので、今までの事業形態では立ち行かず、フルモデルチェンジする必要のある中小企業は多くあります。今後は生き残りをかけ、どう改革していけるかがポイントになります。中小企業の大半は同族経営なので、「ベンチャー型事業承継」も、そのフルモデルチェンジの一つといえますよね。

誰も目を向けなかった中小企業の「後継ぎ」

オプテージ:そもそもベンチャー型事業承継とはどういった事業形態のことでしょうか。

山野:家業に新しい価値を見出し、イノベーションを生み出す「後継ぎ経営」のあり方です。『Bplatz』の編集長だった当時、中小企業の取材を繰り返していく中で、「存続」に対して最も強い意志を持っているのが同族経営の後継ぎ社長の方々だと気付いたんです。生き残るために、社会に必要とされるために、よいサービスやイノベーションを生み出している。日本の競争力を支えているのは中小企業であり、その大半が同族経営です。地域に根差し貢献し続けるという意味でも彼らは重要な存在だと気付きました。一方で、世間の後継ぎ像といえば、「ダサい」イメージが蔓延していることに違和感を覚えたんです。

その後、リーマンショックで社会が疲弊し、廃業や後継者不在問題が深刻化するのを目の当たりにしたのを契機に、後継ぎ支援をスタートしました。まずは後継ぎ世代のイメージを変えるため、親が商売や事業を営む学生だけを対象にしたゼミを大学で開講。「ベンチャー型事業承継」は、そこへ講師として来ていただいた、ある後継ぎ社長さんが自分のことを指して使った言葉です。2016年10月に『Bplatz』で特集を組むと、同じ気持ちを抱えている後継ぎ世代の方から大きな反響がありました。

山野さん
まずは後継ぎのイメージアップから着手したという山野さん

忽那:「ベンチャー型事業承継」は、前向きにチャレンジして何かを創出しようというニュアンスを巧みに表している上、彼らを鼓舞する意味でもよい言葉だと思います。

後継ぎが特に活用するのは長年かけて築いた無形の資産

オプテージ:山野さんは後継者さんに対して具体的にどのようなサポートを行っているのでしょうか。

山野:一般社団法人ベンチャー型事業承継という団体を立ち上げて、家業で新規事業を始めようと考えている34歳以下の後継ぎがネット上で集う「アトツギU34」というオンラインサロンを開設しました。オフラインの勉強会やイベントも定期的に開催しています。そこでは現社長、つまり親世代と同じ事業を続けるのではなく、「自分がやりたいことに家業の経営資源を寄せていく」というのがベンチャー型事業承継だと、彼らに発想の転換を促しています。

例えば、ツールを使って家業のリソースを徹底的に棚卸しし、強みを分解して縦軸に書いていく。横軸には、今流行しているものや未来予想など、自社のリソースと関係がなくてもよいので思いつくまま書く。その2つが交わる地点で半ば無理矢理にビジネスを考えるのです。要は、彼らが無意識のうちに設定している、家業や自分が持つ可能性のリミッターを外していく作業です。町工場の息子さんから「VRの展示会に行ってきました!」などと報告を受けると、視野が広がったという手応えを感じますね。

オプテージの霜野と辻
「現社長とのコミュニケーションの難しさなど、人情味溢れるエピソードはベンチャー型事業承継ならでは」と頷く、
オプテージの霜野(左)と辻(中央)

オプテージ:資源の棚卸しをきっかけに、変えるべきところとそうでないところに気付けるんですね。その後は、具体的にはどんなプロセスを経ていくのでしょうか。

山野:家業の資源を使って新規事業を起こすのなら、負債などのマイナス面も含め、家業を隅々まで知る必要がありますよね。資源には有形と無形がありますが、彼らが利用しているのは仕入れ先のネットワークやブランドイメージなどの無形物が多いです。設備や機械などは古くなっていきますが、無形のリソースは今日明日で作れるものではないので、まさに後継ぎならでは強みですね。それらのリソースに、彼らが経験した海外生活やベンチャー企業勤務などでの学びを掛け算して、新しい価値を見出し事業につなげていっています。

オプテージ:会社の強みに、自分の強みを掛け合わせていくのですね。では逆に、後継ぎであるがゆえの苦労などはありますか。

山野:皆さん、新しい組織作りには特に苦労されます。先代の父親が立ちはだかり、古参の社員からの理解を得られず、かといってベンチャーマインドの新入社員を簡単に雇えるわけではない。孤軍奮闘の結果、心がだんだん折れていきます。

とはいえ、ゼロベースのスタートになるスタートアップとは違い、父親が本業を回してくれているうちに20年後の飯の種を撒けるのも後継ぎの特権であり、醍醐味です。会社によって事情は違い、よくも悪くも方程式が通用しない世界ですね。

忽那:社内でGOが出るかどうかは、先代を含めて社員の納得感が得られるかどうかにかかっていますよね。私がファイナンスの教育プログラムで強調しているのは、「理論武装すべき」ということです。まずは、イノベーション理論を使って、進もうとしている方向はそれでよいのかを徹底的に考えてもらう。今の方向ではなぜダメなのか、リソースをどう生かしてどういう方向にもっていくのかを練りに練って、それを武器に父親や社員を説得する、という方が確率は高いです。

オプテージの辻
忽那さんが講師を務める大阪商工会議所主催のセミナー「新規事業プランニング講座」で学んでいるオプテージの辻

事業承継ならではの苦労を理解した外部サポートは喜ばれる

オプテージ:私たちもデジタルのプロとして中小企業を支援したいと考えています。中小企業の経営を活性化するには、どういった外部サポートが求められているのでしょうか。

忽那:ベンチャー型事業承継にしてもスタートアップにしても、ビジネスモデルを組み替えようとするとさまざまな課題に直面するので、それらをワンストップで解決できるサービスが必要です。会社の状況に適したチームを編成し、支えていく。そこでは生のディスカッションで方向性を共有する定期的なミーティングに加えて、日々の調整にはオンラインでのやり取りが欠かせません。

山野:アトツギU34に集う人たちは、布団屋や金属工場のように全員が成熟産業です。そこで新規事業を考えると、IoTなどのデジタルを使ったビジネスになりやすい。ですが、一社員である後継ぎに銀行借り入れや採用の権限はないので事業化に進まないことが多く、結局クラウドファンディングなどで資金を集めて小さく始めるしかない。そういう彼らを一定期間サポートしてくれてリターンは後でOKというような支援サービスができたら、もっと事例は増えるはずです。

オプテージ:それはまさに我々も議論していたところです。同様のビジネスモデルが成立すれば、他の企業さんと一緒になって関西を盛り上げていくことができます。

中小企業への関わり方
霜野からはオプテージとして考えている中小企業への関わり方も説明

山野:家業に新しい価値を見出すには他者と混ざる必要がある、というのを若い世代はよく分かっています。交流の場を作るという意味でもオンラインは大事なツールで、オフラインで行動を起こすためのきっかけになっています。先日も、アトツギU34でつながった西陣織の2代目と靴工場の3代目がコラボレーションをして作った新しい靴を有名百貨店で発表したばかりなんですよ。

ベンチャー型事業承継が加速すれば地方が元気になる

オプテージ:全国への広がりも見せ始めたベンチャー型事業承継ですが、このモデルはどのような未来を作っていくと期待していますか。

ベンチャー型事業承継
「ベンチャー型事業承継は今後ますます注目される」と予想するお二人

山野:東京に比べ競争力のない地方が、ますます疲弊する今、後継ぎをプレーヤーにしていくことをもっと真剣に考えないといけないと感じています。純粋なスタートアップは軌道にのると成長を求めて東京に行ってしまいがちですが、ベンチャー型事業承継の彼らは、地元に根を張ってくれる可能性が極めて高い人たち。支援する環境を地域の産業界で作っていかなければなりません。

関西がロールモデルになっているのは確かなので、ここから全国に広がっていったらよいなと思います。先日も、スタートアップだけではなく後継ぎを対象にしたベンチャーピッチを日本経済新聞社が主催しました。第1回目の開催地が関西で、次回は福岡。九州、四国でも同様に、ベンチャー型事業承継の波はどんどん加速しています。

忽那:日経新聞のようなメディアが注目したのは大きいですね。関西から地方に広がり、ひいては日本全体の経済を活性化する原動力になってほしいです。

(文/池尾優 写真/白井孝明)

話を聞いたオプテージ社員のコメント

以前からベンチャー型事業承継には注目していましたが、今回の対談ではアクションを起こす企業側の課題やそれをサポートする支援者の役割など、より具体的な話が伺えたので、現場で起こっているリアルな空気感を感じることができました。関西を一地方として捉えたときに、起業後は成長を求めて東京に行ってしまいがちなスタートアップに対して、地域に根を張っているベンチャー型事業承継は、地域にとっての一種の希望。我々のような関西の事業者からすると、一緒になって地域を変えていける存在なのだと実感しました。

地方創生というテーマで各所の取り組みをリサーチしていたのですが、原動力となっているのは地元の有志の方やNPOがほとんどで、企業が関連したものは単発の企画や、企業起点で考えられた取り組みが多い。そんな中、地元で頑張るベンチャー型事業承継の方々が中心となり、継続的に地域社会を元気にしていくという地方創生の在り方が、とても自然で持続可能な流れに感じました。

今回の対談で特に考えさせられたのが、ITやデジタルツールの役割です。ベンチャー型事業承継への支援を全てITやデジタルで実現するのは難しく、リアルな場が必ず必要となります。一方で、リアルな場でのコミュニケーションをより活発・より効率的に行ったり、事業アイデアのヒントや人との出会いを生んでいったりするきっかけとして、ITやデジタルは欠かせないものです。今後オプテージはこうした視点でITやデジタルツールの役割を捉えなければならないと感じました。

  • 忽那憲治神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 副研究科長・教授
    1964年愛媛県生まれ。専門はアントレプレナーファイナンスとアントレプレナーシップ。株式会社イノベーション・アクセルの共同創業者として、スタートアップや中小企業の経営者へ教育を行うほか、ネットワーキング事業やシード・アクセラレーション事業にも取り組む。
  • 山野千枝一般社団法人ベンチャー型事業承継 代表理事 株式会社千年治商店 代表取締役
    1969年岡山県生まれ。ベンチャーやコンサルティング会社、大阪産業創造館などを経て、2018年に一般社団法人ベンチャー型事業承継を設立。会社の歴史を活用した企業ブランディング、採用メディアや社史制作を手掛ける株式会社千年治商店の代表も務める。
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