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デジタル化が町工場を救う⁉2社の成功法にみる未来のものづくり企業のあり方

リサーチ 関西から考える未来のビジネス

デジタル化が町工場を救う⁉
2社の成功法にみる未来のものづくり企業のあり方

独自開発システムにより24時間無人加工を可能にしたアルミ加工メーカー・ヒルトップと、大正13年の創業時から続く職人がつきっきりで釜を焚く「釜焚き」製法にこだわる石鹸メーカー・木村石鹸工業。一見対極に思える両社ですが、どちらもデジタル技術をうまく活用してビジネスモデルを変革させ、業績を劇的に伸ばしているものづくり企業という点では共通しています。

これからのものづくり企業に必要なデジタルとは? その答えを探るべく、ヒルトップ米国現地法人CEOの山本勇輝さんと木村石鹸代表の木村祥一郎さんに、お互いの工場を見学してから意見交換をしていただきました。オプテージも同行しながら、未来のものづくり企業のあり方を探ります。

(聞き手/オプテージ 霜野佑介、辻善太郎)

デジタル化が可能にした、24時間無人加工と高い利益率

オプテージ:ヒルトップさんに到着したとき、何より先にピンクの壁と全面ガラス張りの外観が目に飛び込んできました。オフィスでも仕切りのないフロアで若いスタッフが和気あいあいと業務に取り組んでいて、一般的に「3K」(きつい・汚い・危険)のイメージを持たれがちな工場像が覆されました。

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京都府宇治市にあるヒルトップ本社。コーポレートカラーのピンクは「製造業らしくないカラーを」という理由で選定した

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仕切りのないオフィスでは、営業、生産管理、社内SE、開発などあらゆる部署がここで働く。平均年齢は32歳

山本:4階には社員食堂、最上階には和室、筋トレルーム、お風呂を完備しています。というのも、私たちはもともと大手自動車メーカーの孫請けとして部品の量産をする町工場でしたが、油まみれの暗い現場で単純作業を繰り返す日々では、社員のモチベーションが下がるどころか未来に希望も持てません。そんな現場から脱却すべく、2007年にこの本社ビルを建て、社員が誇りを持って楽しく働ける環境を作りました。2014年にはロサンゼルス郊外に加工工場を、2017年にはシリコンバレーに営業拠点を設立し、ディズニーやNASAなど世界の顧客に応じる体制が整ってきました。

頭を使わないルーチンワークをなくすべく、量産から単品ものの仕事にシフトした結果、顧客を世界にまで広げることができました。今では制作数1〜2個の多品種単品が受注全体の8割を占め、月に約4000種をオーダーメイドで作っています。

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ヒルトップの工場へ初めて訪れた木村さん(中央)。工場を見学している最中も山本さん(右)への質問は尽きることがなかった

木村:その変革の基盤に、24時間無人稼働の工場があると思います。一体どういう仕組みなのでしょうか? 実際、今日の現場にはスタッフが4名しかいなくて驚きました。

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主力となる5軸加工機。人が行うのは材料の取り付けや品物の取り外し、品物のスケジューリング、メンテナンス作業くらい

山本:社員にはクリエイティブな「知的労働」をやってもらうために、機械ができることは全て機械に任せるべきと考えました。通常の鉄工所では就業時間の8割が機械の前、2割がデスクワークですが、それを逆にしています。

日中に社員が製品ごとの加工データを作成し機械に送信すれば、夜間に機械が無人稼働して朝には完成する。機械は出力するだけのプリンターのようなイメージです。高精度な部品を24時間無人で加工し、リピート受注なら3日、新規受注なら5日で単品納入する独自のビジネスモデルを確立できたのも、この自社開発した「ヒルトップシステム」という生産管理システムのおかげです。AIにも力を注いでいて、今では全体の23%に導入されています。

オプテージ:ヒルトップシステムは具体的にどういったものですか?

山本:原料から職人技術まで製造に必要なあらゆることをデータ化して、それら全てのデータに紐づいたシステムを操作して製造プログラムを組んでいます。工具の回転数からスピード、切り込み量まで、一般的に「職人技」と呼ばれるあらゆる項目がデータ化されています。それらをワンストップで設定できる上、工具の状態や完成した商品の品質管理などのデータも逐一更新し続けるので、かなり精度の高いプログラムを組むことができるんです。プログラムの完成後にはシミュレーターにかけて問題の有無をチェックしますが、こちらも長年のデータ蓄積により確度を高めてきたので、今ではほとんどのエラーを未然に防げるまでになりました。

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「直感的に構築できるソフトで、職人技術を知らない新人でも2、3カ月あればプログラムが組める」と説明する山本さん

オプテージ:職人技のデータ化というと職人さんそのものを再現するのかと思いましたが、彼らの技術をベースに新たにモデルを作っていくイメージですね。データを使った技術承継の大きなヒントになりそうです。

山本:もちろん最初は地道に現場の知見を集めるところからでしたが、製品も加工法も常に変化していく中、やはり全ての要素をデータでアーカイブし更新し続けることが、高い完成度を保つのに重要です。とはいえデジタル化は職人仕事を否定する側面もあるので、とてもセンシティブなところですね。導入の上で、会社や育成の未来などの大きなビジョンをしっかり伝えるのは不可欠ですし、運用が始まってからもSEは現場の意見を汲み、職人さんが使いやすいよう何度もアップデートを重ねています。アメリカではシステムに業務を寄せていきますが、日本はその逆。どんなによいシステムでも、現場に気に入られなければ浸透しません。若手社員が現場視点で考えられるようになるために、稼働率は低いですが、あえてアナログで残している機械もあり、部品を削る振動を体感する教育の場として使っています。

オンラインマーケティングで、苦しかったOEM依存から脱却!

木村:現場との調整には私もかなり苦戦しました。前職のIT企業では、最新ソフトなどは積極的に導入する風土がありましたが、木村石鹸では「使い慣れた方法を変えないで」と反発されることも多いんです。

オプテージ:木村さんは自ら立ち上げたIT企業の取締役を退任し、2016年に木村石鹸の社長に就任されました。どのような変革をしてきたのでしょうか?

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大阪府八尾市にある木村石鹸では家庭用・業務用の洗剤や洗浄剤などを製造する。製造量は1日最大10トンにも及ぶ

木村:私が入社した2013年は、なんと営業利益がゼロでした。当時、家庭用製品の95%がOEMで、契約していたのは数社のみ。それだと調子のよいときは効率的で利益率も高いのですが、2008年くらいからは毎年のようにコストダウンの要望がありました。さすがにこれ以上は応じられないとなっても、特定の会社への依存度が高いので断れない、という大変苦しい状況に。このジリ貧から脱するためにも、直販を始めることにしました。OEMで最終製品まで作る能力はあったので、オンラインで販路を持てば、自社で価格を決め利益率も高く取れると思ったからです。

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午後は木村石鹸の工場見学へ。二人だけで話し込む木村さんと山本さん

オプテージ:前職ではネットマーケティングのコンサルもされていたので、その経験がもろに生かされたわけですね。具体的にはどんなことを?

木村:自社商品の開発と並行して、ブランディングのためにホームページを一新しました。うちではさまざまな製品の元になる純石鹸を職人が大きな釜で作る「釜焚き」を代々継承していますが、非効率という観点から、それまでのOEMのビジネスではあえて露出してこなかったのです。それが自社ブランドでは強みになると感じ、全面にアピールすることにしました。

釜焚きは火入れしているおよそ9時間、職人が張り付いて、液体の色や艶、タレ具合、香り、音など五感をフル動員し、その反応を見ています。ときには舌で舐めてアルカリの強弱を判断することもあるんですよ。加熱による反応が未熟だと刺激が強くなりすぎ、反応が進みすぎると洗浄力がなくなってしまうので、見極めは重要です。手間暇がかかるため、今ではこの工程が終わった状態のものを海外から安価で仕入れて使う工場が多いのですが、うちではこの製法を守ることで自社の石鹸のクオリティや安全性を追求しています。

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釜焚きでは、鹸化の具合は油脂の種類、気温、湿度など多くの要因に左右されるので毎回同じようにはいかない

山本:そういった中で生まれたのが自社ブランドの「SOMALI」ですね。「SOMALI」とはどういう意味ですか?

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2015年に立ち上げた、天然素材のやさしさを生かしたハウスケア&ボディケアブランド「SOMALI」

木村:「素材のかたまり」が名前の語源です。汚れを包んで浮かせる役割の「界面活性剤」には、100%植物オイルから作った純石鹸を使いながらも、満足のいく洗浄力も持ち合わせるものを目指しました。

さらにデザインにもこだわりました。Instagramなどでよく見るスタイリッシュな水回りには、派手な色やデザインの洗剤は浮いてしまいがち。「SOMALI」は売り場で目立つのではなく、家の空間になじむようにシンプルで飽きのこないデザインを目指しました。

山本:うちはBtoB企業ですが、BtoCは興味のある部分です。BtoBからBtoCへ移行された際に、社員の皆さんにはどういう変化がありましたか?

木村:オンラインは反響が分かりやすいので、社員のマーケット意識やモチベーション向上にかなりつながりました。例えば、楽天を通した直販では、テレビ番組でとある商品が取り上げられたことで、その商品の売り上げが激増したことがありました。ネット通販の可能性に社員が気付くきっかけになりました。また、一新したホームページでは社員が持ち回りで書くブログ記事に人気が出てアクセス数がどんどん伸びましたし、アクセス元から大手企業が見ていることも判明し営業スタッフの意識が高まりました。自社ブランドの売上は10%ほどですが、その効果は絶大でした。

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ホームページでは社員発案のおもしろ企画も随時公開。自社商品を使って銭湯や一般家庭を掃除する企画などは特に人気

オプテージ:製造過程でデジタル化されたことはありますか?

木村:大きかったのは、あちこちに散らばっていた商品のレシピを、原料や原価などと紐付けながら、全てデジタル化したことです。レシピの数が500以上もあるので大変でしたが、どんなときでも誰でもレシピにアクセスできる環境は、担当者不在の際などに役立っています。

また、生産管理システムを導入し、BIツールを連携させることで、売上や粗利などが顧客別・商品別などさまざまな角度からオンタイムで見られるようになっています。常に現状を把握できるのは安心感があります。細かい点では、社内のコミュニケーションにチャットワークを導入しました。最初は消極的だった社員が、使い勝手のよさに気付き愛用してくれるようになったのはうれしいことです。

デジタル化の見極めは、人が成長する作業かどうか

山本:私たちは効率化を追い求めてきましたが、効率化は進めば進むほど社員のやりがいやモチベーションが下がるという面もあり、いつも悩まされます。釜焚きなどは何年もやり続けた方にしか分からないやりがいや面白みがあるし、それが外部に評価されたときの喜びはひとしおでしょうね。

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職人に釜焚きの説明を受ける山本さん。 「釜焚き10年」と言われるように、一人前になるには時間がかかる

木村:確かに釜焚きを公開するようになってからは、職人さんが誇りを持ってくれるようになりました。うちは勤続年数の長い社員が多いですし単純作業が好きな方もいるので、デジタル化はできるところから少しずつ着手してきました。ヒルトップさんは新卒も多く平均年齢も若いのでデジタル化への抵抗は少ないですよね。

山本:そうですね。よく思うのは、社員には面倒な仕事はちゃんと「面倒だ」と感じてほしいんです。面倒な仕事というのは、単純作業や非効率な作業、人の成長が見込めない作業のことが多い。であれば、それらはどんどん機械に任せてしまい、社員には空いた時間でクリエイティブな仕事をしてほしいと思っています。

その狙いで社内に設けたのがオープンラボです。エイジング加工を施した革の財布を作ったり、130人が一度にできる流しそうめんを作ったり、一見ただの遊びに見えることも多いですが、面白いアイデアがあればどんどん形にしてほしい。そうして過去に経験した制作が、何かの開発に結びつくことは多々あります。最終的に社員には新しい事業を生み出してほしいと思っているんです。やはりその部分は人でないとできないことです。

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社員が自由に使えるオープンラボには、3Dプリンターや光造形機、そのほかあらゆる工具がそろう

オプテージ:デジタル化が目指すのは効率化だと思われがちですが、そこで止まるのではなく、クリエイティブな仕事をする余裕を生み出すことが真の目的なんですね。

組織の判断基準は「正しさ」ではなく「面白さ」

オプテージ:両社のデジタル化は、どのような企業に有効だと思いますか?

山本:どの企業もやれることはあるのに、できないと思いすぎている気がします。うちのデジタル化も、小さな無駄を省くなどの日々の積み重ねからできているので、そういう意味ではどんな企業にも当てはまるのではないでしょうか。自社ブランドの開発もそうですよね。OEMで最終商品まで作っているのなら「できる」と本当は分かるはず。だから、やるかやらないか。「儲かるか」という判断基準は経営者と社員で温度差が出るのに対して、「面白いかどうか」は経営者も社員も同じ気持ちで判断できます。そこが変革のキーになるのかも。

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対談では両社の人材育成や評価における共通点が多く見えてきた

木村:そこは同じ気持ちで、「売れるかどうかにかかわらず、自分がほしいと思う商品はどんどん作ってほしい」と社員に常々言っています。一般的な会社では「責任」は「失敗したらペナルティを受ける」という意味で使われていることが多いと思います。うちでは責任の定義を「自ら始めたことに対して最後まで向き合ったかどうか」としています。失敗や問題が起きても、そのこと自体はペナルティの対象ではなく、最後まで失敗や問題に向き合ったかどうかが大事です。そうしないと誰も新しいことをやりたいとは思えません

山本:うちも失敗は怒らない文化です。人材面で言うと、風変わりな入社試験で面白いアイデアのある人を主に採用しています。さらには担当が転々と変わっていくジョブローテーション制なので、新しい担当者が業務の無駄に気付きやすい上、お互いに他部署のことを思いやって業務を進められます。さらには自分の仕事が特定のものではないので、将来自分の仕事がなくなってしまうという恐怖が小さいように思います。

木村:最近は上司が部下を評価せず、給料も自己申告制という「ノーレイティング」制度も始めました。社員には来期自分が取り組むこととそれに見合うと思う給料を申請してもらい、それをもって評価と給料が決まるという仕組み。これによって自主的に行動して業績が伸びた社員も出てきました。

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木村石鹸の商品開発部でテスト中のさまざまな試作。ここ6年間で着手数は激増した

工場のあり方を変えることで、ものづくりの概念を変えていく

オプテージ:今後の取り組みについて教えていただけますか?

山本:実は今、ヒルトップのシステムをまるごと販売する準備をしているところです。商品完成までを全体で見たときに、うちの前後に携わる工場さんにもヒルトップと同じ速さを実現してもらえたら、試作加工全体のスピードがアップする。こうしてものづくりの知見や技術をシェアしていけば、試作の概念が変わっていくはずです。ほかには、今ボトルネックになっているデータ制作時の入力をAI化しようとしていますが、これが進めばよりスピードが上がります。同じ製造業でも分野を拡張していきたい企業さんなどは興味を持たれるでしょうし、自社で製造する能力がほしいメーカーさんなどにはかなり有効な手段かと思います。

木村:ヒルトップさんの仕組みのすごさは人の部分も大きいですよね。鉄工所らしくない工場に多くの人が見学に訪れることが、社員の意識変革につながっている。うちも三重県伊賀市に新工場を新設中で、目指すのは「オープンな工場」です。ヒルトップさんを見学し、現場の雰囲気や職場の変化が人のマインドを変えるのにいかに有効かが分かりました。そういった環境作りに取り組んでいこうと考えています。

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木村石鹸は三重県伊賀市に新工場を建設中。そこでは工場見学も積極的に受け入れていく

(文/池尾優 写真/津久井珠美)

話を聞いたオプテージ社員のコメント

デジタル化というと業務効率化ばかり注目されますが、両社とも効率化はあくまで手段で、その先にある「面白い仕事をする」ことを重視しています。効率化とモチベーション向上が対局にあることを前提として、それらを両立させるためのビジョンが共通認識として社内に浸透し、デジタル化の原動力にもなっていてよい循環ができている。とても健全なITの活用法に感じました。また、デジタル化の見極めのポイントが「人が成長する仕事かどうか」というのも面白かったです。

両社とも危機感を強く感じていて、目先の利益や安心感を捨て、覚悟を持ってデジタル化に踏み切っていたのが印象的でした。社員の平均年齢や会社の風土など、それぞれに難所のある中で、強い意志を持って会社にフィットする形で変革を進めていました。両社の経緯を同じ場で伺ったことで、企業の数だけデジタル化の勝ちパターンがあることが分かりました。

製造業のデジタル化においては、現場の人に使ってもらえるものであることが第一で、サービスの中身だけでなく積極的に触ってもらう仕組みや仕掛けも重要だと気付かされました。アメリカ事情に詳しい山本さんの見解や、ITと現場の双方を経験している木村さんの意見は、どちらも納得感があり、オプテージとしてはIT事業者側の今後の課題も見えました。

  • 山本勇輝HILLTOP株式会社 米国現地法人CEO
    1980年京都府生まれ。広告代理店営業を経て、2006年に山本精工(現・HILLTOP)に入社。2014年に米国現地法人を設立し、CEOに就任。NASAやUberなどアメリカ企業1000社の試作開発を手掛ける。2年前からは京都本社を拠点に、「ヒルトップシステム」の販売やさらなるAI化などに向けて力を注ぐ。
  • 木村祥一郎木村石鹸工業株式会社 代表
    1972年大阪府生まれ。大学時代の仲間数名とITベンチャーを立ち上げ、以来18年間、商品開発やマーケティングなどを担当。2013年に同社の取締役を退任し、家業である木村石鹸工業へ。2016年に4代目社長に就任。IT企業の経験を生かしてオンラインマーケティングを展開し、伝統製法を強みに変えて売り上げを倍増させた。

プロジェクト①空き家があるまちの未来

空き家や空きスペースを起点に、人口減少時代のまちづくりを考える